「あの木が」と思いながら、私は車に寄りかかったその木に思わす話しかけていた。「あんたは生きてるの、死んでるの」と。そして皮はブヨブヨになって剥がれ落ち、あちこちにたくさんの穴ぼこがあいているそんな木に恐い感覚も無く、撫でまわせるのが不思議だった。
しばらくして、3人の男性が「アー」とか「オー」とかけたたましい掛け声をかけながら、その木を片付け始めた。私は遠くから、その声を不思議な思いで聞いていた。ただ、その柿の木が私の身内みたいに思えて、寂しさだけがジーンと身に堪えた。
しかし、その木は、根元にもえぎのような若木を残していってくれた。それを見て「ああ、跡継ぎを残していったのだ」と、私は胸をなでおろす思いであった。