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蓮見仁平(はすみにへい)(大正9.9.30生・栃木県那須郡烏山町)

 

栃木県烏山町で農業を営む氏は、平成10年8月27日午前、集中豪雨の影響で増水した那珂川の中州に取り残された住民3名を助けるため、自身の危険を顧みず荒れ狂う濁流へ単身アユ釣り舟を漕ぎ出して救出に向かい、巧みな操船技術を駆使して無事3名を救助された。

 

8月27日未明、栃木県那須地域は時間最高雨量90mmの豪雨に見舞われ、約50km下流の烏山町でも断続的な降雨が続いていた。氏は同日午前8時前、那珂川左岸の自宅から約500メートル離れた船着き場に行き、通常時より2メートルも水位が上昇した川水に腰まで浸かりながら、所有する3隻のアユ釣り船を川岸の高台に移動させた。

断続的な大粒の雨の中で地元の人と川の様子を見守っていた時、土手を下流に向かう軽乗用車を認めた。直後に水位は急激に上昇し、川幅も通常70〜80メートルの2倍以上になった。下流へ行った車が気懸かりで土手づたいに行くと、河川敷で軽乗用車が濁流に水没し、約400メートル離れた中州から助けを求める声が聞こえた。

川中に取り残された3名が腰まで水に浸かり、冷蔵庫やドラム缶、家畜、流木を必死で避けているのを認めた氏は、川岸で巡視警戒中の消防団員に消防署への救助連絡を託した後、再び現場に戻った。

 

その間にも水勢は強まり一刻も猶予できないと判断した氏は、川岸に移動させた自分の舟の中で一番大きい、長さ約8メートル・幅約60センチの木製の舟を選び出し、一人で濁流の中へ漕ぎ出した。急流を乗り切って約500メートル下り、しぶきの間から3名の姿を確認して舟を寄せ、船内に助け上げた。

喫水ぎりぎりとなった舟を操り、再び左岸を目指して漕いだ。現場下流は荒川と合流した危険な岩場で川幅も200メートル余に拡がっており、岸からのロープ確保も不可能な状況であった。

高さ約1メートルの波を上げる濁流、川底に竿が届かない危険な状況の中を操船し、上流に向けて漕ぎ続けて約1時間後、100メートル離れた川岸に舟を着け、無事3名の救助に成功した。

 

救出された3名は付近の家族で、氏と同じようにアユ釣り船を引き上げに来て、急激に増水した川中に取り残された。同月30日まで続いた集中豪雨の影響で那珂川と荒川が増水、氾濫したため、烏山町では浸水131棟、34世帯103名が避難、田畑の被害は203ヘクタールに及んだ。

(栃木県推薦)

 

 

 

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