第5章 海上風と波浪の衛星観測の現状
本章では、海上風と波浪のリモートセンシングの概要、海上風と波浪を対象とした衛星観測の現状等について調査した結果を記述する。なお、略語の正式英文名を資料集に掲載した。
5.1 海上風のリモートセンシングの概要
衛星から海上風を測定するサンサには、マイクロ波散乱計(scatterometer)、マイクロ波高度計(altimeter)及びマイクロ波放射計(radiometer)がある。散乱計と高度計は、マイクロ波を海面に照射し、散乱されて戻ってくる信号の強度から海面の規格化レーダー散乱断面積(σ0)を測定し、この値から海上風の推定を行う。放射計は海面のマイクロ波放射強度から海上風を推定する。現在、海上風の風速と風向の両方が測定できるセンサはマイクロ波散乱計だけであり、高度計と放射計は風速しか測定できない。
図5.1に海面のマイクロ波散乱の入射角依存性を示す。入射角が25〜70°の領域では、マイクロ波の波長と同程度の1〜数cm程度の波長を持つ表面波による共鳴散乱(ブラッグ散乱)が主要な散乱メカニズムである。
図5.2にσ0と海上の風速の関係を示す。ブラッグ散乱領域では、σ0は海上風速の2乗程度で増加する。図5.3にσ0と風向とマイクロ波照射方向のなす角φの関係を示す。σ0はφに対してほぼ2次の余弦関数の形で変化する。このような海面のσ0の性質は、マイクロ波と同程度の波長の短い表面波のスペクトル強度の風速・風向依存性に依っていると考えられる。海面散乱計ではσ0のこのような性質を利用し、異なる幾つかの方向から同じ海面のσ0を測定し、この測定値とあらかじめ得られているσ0の風向・風速依存性から海上風ベクトルの推定を行う。
この方法を最初に実現させたのは1978年に米国が打ち上げた海洋観測衛星SEASATに搭載された海面散乱計SASSであった。しかし、SASSでは2方向からの観測しか行わなかったために、4種類の不確定な解が得られた。この解の不確定さを小さくするためには、3つ以上の方向からの観測が必要となる。これを実現したのが、SASSと同じファンビーム方式によるAMI/Wind Modeで、ERS-1及びERS-2に搭載している。AMIでは衛星軌道の片側だけしか観測できず、また運用はSARとのシェアリングで行う。