第1章 総論
1.1 研究開発の背景と目的
海洋における衛星リモートセンシングの歴史は、1978年の海洋観測衛星SEASATに始まったと言える。その後、1990年代になって、継続的な観測業務を目的とした衛星による海洋観測が始まった。海洋観測ミッションとして現在、ERS-1・ERS-2(地球観測衛星、ヨーロッパ各国が共同運用;1991〜1995、1996〜現在)、TOPEX/Poseidon(海洋観測衛星、米国と仏国が共同運用;1993〜現在)、RADARSAT(氷監視衛星、カナダが運用;1995〜現在)等が運用されている。
日本では、1996年8月に、地球環境監視を目的として、8種類のセンサーを搭載した大型の地球観測衛星(ADEOS:Advanced Earth Observing Satellite)を打ち上げた。ADEOSは約10ヶ月間のデータを取得した後、太陽電池パネルの故障により、1997年6月に電源を失ったが、この間に取得されたデータから、多くの科学的知見が得られている。
このように、近年の地球観測衛星の発展によって、広範な気象海洋が瞬時に観測できるようになった。これらの観測データを利用して、多くの科学的研究と監視業務が推進されつつある。例えば、ヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)では、ERSの海上風、波浪、氷等の観測データを気象予報モデルへ取り込み、気象予報の精度向上を図っている。カナダでは、RADARSATを用いて、船舶交通に重要な情報である海氷等を監視し、それを氷予測モデルに取り込み、防災に役立てている。
衛星観測データは、地球科学の研究や気象・海洋業務に大変有用であることが、今までの成果に示されている。しかし、未だ十分に利活用されているとは言えず、衛星データの気象業務等への実用化は、今後の重要な課題の一つである。
一方、船舶の安全な航行のためには、航海上の気象海象を把握することが重要である。特に、船体に影響を及ぼす海上風と波浪の情報が重要である。海洋上における海上風と波浪を監視するには、広域性と瞬時性の長所を持つ衛星からのリモートセンシングが有効であることが知られている。
以上より本研究では、衛星観測データを用いて、船舶航行に重要である台風域内における海上風と波浪の特性を把握することを目的とする。これにより、今まで観測事例の少なかった台風域内の海上風と波浪の特性が明らかになり、台風や波浪予測モデルの精度を向上することができる。この結果、船舶の安全な航行、効率的な運航、及び沿岸防災を支援することができる。