歴史的海上気象観測データの有用性
坂井紀之(日本気象協会関西本部)
山元龍三郎(京都大学名誉教授)
要旨
一般に、歴史的海上気象観測データセットには気候ノイズが含まれている。本論では、Gandin(1963)によって提案された構造関数を用いて、海上気象観測データの月および年平均の気候値に含まれる気候ノイズを算定した。5つの沿岸地域とその近海について海上気温の気候ノイズを陸上において観測された気温の気候ノイズと比較したところ、海上気温の気候ノイズは陸上気温のそれより大きくはなく、気候値としてみた場合、海上気温データは陸上気温データに劣らぬ品質であることがわかった。また、海上気温データを用いて、ここ40年間における太陽活動による実際の気候の応答を観測データから確認する「気候診断」を試みた。
1 はじめに
太陽活動などの外部強制力に伴う実際の気候の応答を観測データから確認する「気候診断」を試みる際、観測データに含まれる不規則な誤差「気候ノイズ」が、求められるべき「気候シグナル」より大きい場合には、実際に気候変動が起こっていてもそれを検出することはできない。したがって、気候診断の研究を行うには気候ノイズの評価が不可欠である。
過去における大部分の海上気象観測は主に洋上を航行する商船や漁船によって行われてきた商船等による観測は本来の運航業務の合間を縫って実施され、また、測器も運航や観測の容易さの見地から設置されている。そのため、観測は必ずしも適切な条件下で行われているとは限らず、データの品質は高いとは言えない(Roll、1965)。しかし、海上観測により得られた気温の気候ノイズは陸上観測データの気候ノイズに比較して大きくはない場合がある。
本論では、第2節において船舶によって観測された海上気温データの性質を紹介し、第3節ではそれに含まれる気候ノイズの算定方法を示す。また、第4節において海上気温データの気候ノイズを実際に算定し、第5節においてそれを陸上気温データの気候ノイズと比較し評価する。更に、海上気温データを用いて、太陽活動による気候シグナルの検出を試みた結果を第6節において紹介する。