しかしながら、個々の台風の一生における最大強度について最大ポテンシャル強度を用いてその相対強度を計算したところ平均で37%であった。このことは個々の台風の最大強度を決める要素としては、海面水温以外の環境要因がより重要であることを示している(J.-J. Baik et al., 1998)。
ここでは他の要因にまで深く言及しないが、参考までに海上気象データセットを用いて、台風が多い年代(例えば1960年代)と台風が少ない年代(例えば1970年代)の北太平洋低緯度の海洋気候を図示した。図2.10にそれぞれ1960年代、1970年代の夏季と秋季における海面水温偏差の分布図を示した。夏季、秋季共に台風が多く発生した1960年代は、その発生域である太平洋西部熱帯海域の海面水温は負偏差であり、それより東の赤道海域は正偏差である。1970年代についてみれば、反対に太平洋赤道域の中央部から東部にかけての海域が平年並みか負偏差となっており、相対的に西部海域の海面水温が高い。図は省略するが、台風の発生数が多い1990年代前半も1960年代と同様な傾向であった。また、図2.11にそれぞれ1960年代、1970年代の夏季と秋季における東西風の偏差の分布図を示した。ここでは、正偏差は西風偏差を表している。夏季、秋季共に1960年代の北太平洋熱帯海域は西風偏差である。つまり偏東風が弱かったと言える。反対に1970年代についてみれば、北太平洋赤道域が東風偏差となっており、偏東風が強かったことがうかがえる。図は省略するが、台風の発生数が多い1990年代前半の秋季も1960年代と同様な傾向であった。
以上のように、台風の多い1960年代と台風の少ない1970年代の海洋気候に明瞭な違いが認められる。ここでは台風の発生域における海洋気候の変動傾向を示すのみにとどまるが、このような気候環境の変化が台風の発生頻度・発達強度にどのような影響を与えているのかは非常に興味深い。台風の発生・発達に好適な条件は海面水温の他に、大気安定度、風の鉛直シアー、相対渦度、水温躍層の分布などが挙げられ、その変動を調査するためには、船舶海上気象データはもちろんのこと、高層気象データや海洋データ、近年整備された全球の解析値をも有効に利用して解析を進めることが望ましい。