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3. Validation Boundaryを考えることの利点

3-1. 学科境界との関係

Discipline Boundary(以下D.B.)でなくValidation Boundary(以下V.B.)を取ることの利点は、次のようにまとめられる。まず第一に、D.B.が第2項にのべたように研究者によってまちまちであるのに対し、V.B.はジャーナルを単位としてとっている故、境界をはっきり定義することができる。第二に、しかもその境界が、固定されたものなのではなく、科学者集団の行為によって、つまりrefereeingという行為の積み重ねによって維持され、変化しうるものであることが示せる点である。第三には、教育「制度」から独立して、研究の現場における妥当性要求水準を議論できるという点である。またさらに、V.B.は、学問のタコツボ化のメカニズムを説明したり、あるいは学問分野による厳密さの要求水準の違いを示したり、異分野間摩擦や異分野統合、というものを説明するのに便利な概念である。以下にそれを順を追って示そう。

 

3-2. タコツボ化のメカニズム

何故科学分野はタコツボ化しやすく、何故学者は放っておくと狭い分野に籠もるようになるのだろうか。V.B.概念を用いると、このメカニズムをうまく説明することができる。これは、その研究者の所属するジャーナル共同体の査読システムとの相互作用によって決まるのである。この機構を以下に説明する。まず、研究者は、一人前の研究者になるために、1つのジャーナル共同体参入のための訓練を積む。これは、そのジャーナルの査読者にacceptされる論文を産出するための訓練を積む、ということである。この訓練によって、研究者は、その分野の問題設定の枠組みを「妥当なもの」として内化する。この枠組みを内化することを通して、ますます、訓練のない論文、つまり当該のジャーナル共同体の枠組みに合わない論文が「奇妙に」見えるようになる。つまり、問題設定が分野の常識からずれている、というように見えるようになる。この見え方が、その研究者が査読者となった際に発揮され、後続の論文を同様の枠組みに基づいて教育するようになる。つまり、その研究者が自分の訓練の時代に積んだ枠組みを、自分が査読者になる時に繰り返し、強化するわけである。このようにしてさらに後続の新しい研究者の訓練がおこなわれる、、、という形で、専門分野は、このジャーナル共同体におけるV.B.を守る査読システムを核にして、専門分化へ正のフィードバックがかかるよう作動する。

 

 

 

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