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そのためにはこれまでの視点を変えなければならないところが多いと思う。またその場合、海洋資源のストックを人類全体の共有財産と見なし、それをどのように公正に利用すべきかという観点から国際協力を進めなければならない。200海里水域の設定のように、海洋を沿岸諸国の間で分割して、それぞれの中にある海洋資源について沿岸国に排他的権利を認めようというのは、そんな境界には全く無関係に海流が流れ魚群が境界を越えて自由に移動している以上、海洋資源の保全、有効利用という観点からは有効ではない。のみならず海洋はいろいろな形で地球全体に影響を与えているのであって、それに対する権利を沿岸国にだけ与えようというのが公正とは言えない。

海洋資源を全体として人類の共有財産であるストックと考えるとすれば、それの利用においても私企業の利潤追求活動の自由に委ねておいてよいかという問題がある。勿論現在でも漁業活動については、水産資源保護の点からの制約は加えられている。しかしそれは一般にまだ極めて単純な規制でしかない。海洋資源が一般に全人類の共有財産であるとすれば、それを個人や私企業の自由な利用に任せれば、いわゆる「共有地の悲劇」が起こって資源が使い果たされてしまうことは、経済学の示すところである。これに対して現在の主流の自由主義経済学によれば「共有地の私有化によってその外部経済性を内部化する」ことが必要であるということになるかもしれない。しかしそれは陸上の共有地にはある程度適用できても、海洋資源の私有化(プライバタイゼーション)を行うこと、すなわち海洋資源ストックを特定の私企業の資産としてしまうことは、現実的ではないであろう。抽象的に考えれば、私有化することによって、企業が資源ストックから長期にわたって最大の利益を得ようとすれば、自ずから資源の最適利用が達成されるという論理も成り立つかもしれない。しかし莫大な海洋資源ストックを、多数の資産に明確に区分して、多数の所有者に分割することは技術的に不可能に近いし、また世界の海洋資源全体を一つの企業の所有にしようというのであれば、その企業は巨大な独占体となってしまい、そのようなものの存在自体が大きな問題を生ずるであろう。

海洋の生物資源については積極的にそれを殖やす養殖業もある。これも今まではほとんど沿岸で行われていたので、特に海洋の観点から問題にする必要はなかったが、現代では沖合い、或いは大洋中に漁礁を作るようなことも研究されている。その場合周囲の海を囲い込んでしまうようなことはできないから、そこから得られる資源をどのように管理するかの問題が生ずる。更にはある一定の海域について全体の生産性を高めるような技術も開発される可能性もある。その場合にはいろいろな形での影響が生ずる可能性(マイナス面もふくめて)があるので、その適切な管理が必要である。

 

 

 

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