海上の軍事的な覇権については、第二次大戦以来航空勢力が圧倒的な意味を持つことが明白となっているので、もはやそれ自体としての海軍はあまり意味を持たなくなっている。これに対して商船隊はかつては各国の経済にとって、また政治的にも大きな意味を持っていたが、現在では経済活動としての海上輸送は真にグローバル化し、その国際関係は極めて複雑なものになっている。
交通路、交易路としての海洋の将来についてはより立ち入った研究が必要である。
3. 海洋資源
海洋の社会的役割としては、資源の供給源という面がある。昔から海は漁業の場でありそこから得られる水産資源は、人々の栄養源の一つであり、一部はまた肥料や飼料としても利用されてきた。
水産業の特徴はつい最近までそれが自然に生み出された資源を採取するだけの段階にとどまっていたところにある。その一方で漁獲技術は大きく進歩し、機械や魚群探知装置を備えた大型船が遠洋漁業を行うようになり、経営体も家族経営的な「漁家」から大規模な株式会社へと発展した。しかしこのような漁獲技術の発達は、水産資源の再生能力と漁業による収獲との間のアンバランスを生じ、いわゆる「乱獲」による水産資源の減少、一部の種の絶滅が心配されるようになった。これに対して最近ではいろいろ手段が講ぜられていることはいうまでもない。しかし一つの種の動物(魚類或いは哺乳類)についてのみ、その数の増減を調べて、その数が減りつつあれば捕り過ぎだから漁獲を制限しようというのは単純すぎる。海洋における生態系は一つの大きなシステムであって、その中の多くの生物種は相互に複雑な関係を持ち、また海洋の物理的条件(水温、海流など)にも影響されるので、漁獲制限だけが海洋資源を保護する方法ではない。海洋哺乳動物は莫大な量の餌を食べてしまうので、その数を増すことは海洋の生物資源量をむしろ減らしてしまうということも言われている。「再生可能な自然資源renewable natural resources」としての海洋生物資源の「最適捕獲量」を数理モデルを用いて計算する研究も、最近行われるようになったが、まだそのモデルは単純すぎて十分現実的とは言えないし、またいろいろな種の相互関連を取り入れたモデルを作るには、その相互関連を表すパラメータについての情報が著しく不足している。いずれにしても、海洋資源を陸上から見て「自由な」外界にある資源と考えるのではなく、海洋全体の生態系を一つの閉じた系と見て、そこにある資源を再生可能な、或いは増減するストック量と考え、そこから最も効率よく資源を抽き出すにはどのようにすべきかということを考えなければならない。