日本財団 図書館


Thank god for giving us the pleasure of sports!!

SPORTS FOR

ALL NEWS

スポーツ・フォア・オール ニュース

2000 JAN

vol. 34

 

特集 SSFスポーツフォーラム'99

「このままではスポーツクラブはできない」

新連載 CULB-LIFE in SCOTLAND

「障害者スポーツ」をめぐる日英比較

第16回TAFISAコングレス

 

 

動き出した日本版ヘルスプロモーション・プロジェクト

「ヘルシーピープル2000」VS「健康日本21」

 

日本人の健康寿命を延ばすため、具体的な数値目標を定めたヘルスプロモーション施策「健康日本21」がスタートする。一方でべースとなったアメリカの「ヘルシーピープル2000」プロジェクトは10ヵ年計画の大詰めを迎えている。はたして成果はあがったのか。

 

欧米諸国では近年、国民の「健康づくり=ヘルスプロモーション」を国家レベルでサポートする政策が導入されてきた。アメリカでは保健福祉省が1980年に「健康増進・疾病予防に関する国家目標」を発表、個人の生活習慣の改善に重点を置くヘルスプロモーション・プロジェクトがスタートした。この成果をふまえて90年に策定された「ヘルシーピープル2000(以下HP2000)」は、2000年までに到達すべき具体的な目標を示した10ヵ年計画である。

HP2000が目指すゴールは次の3つ。

・国民が健康に生活できる期間を延長する

・国民の間の健康格差を解消する

・すべての国民が予防サービスを受けられるようにする

この基本目標を達成するため、22の重点領域に319項目を振り分け、それぞれに科学的データにもとづいた具体的な数値目標を提示した(表1、2)。数値目標は年齢別(子供、若者、大人、高齢者)設定、特定対象層別(低所得者、黒人、ヒスパニック系アメリカ人、障害者など)設定など多岐にわたる。またHP2000を統括するのは保健福祉省だが、各重点領域については専門の機関がリーダーシップをとっている。たとえば、「身体活動とフィットネス」は大統領体力スポーツ審議会(PCPFS)、「栄養」は国立衛生研究所(NIH)と食品医薬品局(FDA)、「たばこ」は疾病対策センター(CDC)がそれぞれ主要機関となっている。こうした機関が旗振り役となり、州や市が、各自でアクション・プログラム(行動計画)を策定し、地域、企業、ボランティアなどと連携して、各種プログラムの提供や啓発活動を行うのである。「いかなる立場であれ、我々には国民の健康プロフィールの改善に貢献する機会と義務がある」というテーゼのもとに、個人、家族、地域、医師などの専門家、メディア、政府などすべてのセクションが目標達成のための責任を共有している点が特徴的である。

 

表1 HP2000の重点領域

001-1.gif

 

表2 HP2000の主な数値目標

001-2.gif

 

十分な成果

99年6月に発表された最新の経過報告書「ヘルシーピープル2000レビュー(98−99)」によると、複数の領域にまたがる重複項目を含めた全376項目のうち、52項目(全体の約14%)がこの時点で達成されている。この中には「ガンによる死亡者を人口10万人あたり130人以下に減少させる」「血中コレステロールが240mg/dl以上の成人を20%以下に減少させる」などが含まれている。また、目標値に近づいているものが160項目あり(表2の5つの項目はこれに含まれる)、成果は十分といってもいい。最終結果が発表される来年までには、目標達成項目数はさらに増えると予想される。もっとも、52の達成項目の中には、比較的に達成が容易なものも含まれており、好結果を導き出そうとする意図も見え隠れしている。また、スタート時点よりも状況が悪化し、目標値が現実から遠のいた項目が70もある。たとえば、アメリカで最も深刻な健康問題の一つ「肥満」に関する「肥満者の割合を20歳以上では20%以下に減少させる」という項目は、80年の26%が94年時点で35%と大きく乖離してしまっている。

いずれにせよ、最終的には全体の6割近くの達成が見込まれることから、HP2000がアメリカ国民のヘルスプロモーションに大きく貢献したことは確かである。現在、保健福祉省は2001年にスタートする次の10ヵ年計画「HP2010」の策定に向け、準備を進めている。

 

国民意識がプロジェクトを後押し

我が国でも厚生省の主導のもと、21世紀の国民健康づくり運動「健康日本21」が動き出す。HP2000などを参考に「栄養・食生活」「身体活動・運動」など9領域の項目に目標値を設けており、これまでの「第一次国民健康づくり運動」(78年)、「アクティブ80ヘルスプラン」(88年)といったヘルスプロモーション・キャンペーンとは一線を画すものになりそうだ。ただ、気になる点もいくつかある。昨年8月に発表された原案によると、「身体活動」に関する目標は、「1日の平均歩数を1,000歩増加させる」を含む3項目。運動・スポーツが健康に与える影響の大きさを考えると、やや物足りない気がする。また、「成人喫煙率を半減させる」「1日当たり1合以上飲酒する人を減少させる」といった目標には、利害関係にある業界団体からの反発が強く、目標達成のための行動計画そのものが骨抜きになってしまう不安もある。

ヘルスプロモーション・プロジェクトは行政の力だけでは決して成功しない。HP2000が成果を挙げた背景には、米国民の健康に対する危機意識の高さと、この施策に賛同して様々なキャンペーンを展開した各種団体の努力がある。「健康日本21」の成否もまた、国民一人一人にかかっている。スポーツに携わる我々が果たすべき役割は特に重要だと言えるだろう。

 

 

 

目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION