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スポーツ・フォア・オール ニュース

1999 JULY

vol. 31

 

こまつなおゆき

「カラダの時間割を知って生活を組み立てる」

青島健太

「肉体はすべてを語る」

根本幸夫

「文明と病気の深刻な関係」

新学習指導要領で「学校体育」が変わる

チャレンジデー'99結果報告

 

 

新学習指導要領で「学校体育」が変わる

スポーツの裾野を広げる好機到来!

 

学習指導要領が改訂される。およそ10年ごとに行われる指導要領の改訂は、学校体育を巡って毎回スポーツ界に様々な影響をもたらしている。今回の改訂の基本方針は「ゆとリの中で生きる力を育てる」で、小・中・高とも完全週5日制への移行に伴う授業時間数の削減以上に指導内容を減らしている。体育の授業時間数も1割以上の削減。子どもたちの体力・運動能力の低下が叫ばれる現在、これはスポーツ振興にとってマイナスなのでは、と考える向きも多いかも知れない。だが、今回の改訂、視点を変えれば学校体育を活性化するチャンスと捉えることもできる。

 

今回の改訂を、特に学校体育に絞って眺めてみよう。

体育の改訂内容の基本的な考え方で注目すべきは以下の2点である。

1 運動の取り上げ方の弾力化……小・中・高等学校を通じて、学校や地域の実態に応じて多様な運動を指導することが出来るようになった。

2 自然とのかかわりの深い活動の重視……学校や地域の実態に応じて、戸外での自然体験的活動をさらに積極的に取り入れられるよう、自然とのかかわりが深い活動の例として「水辺(すいへん)活動」が加わった。

実際に何が変わったかを、小学校第3・第4学年のゲームという項目を例に改訂前後を比較してみる。改訂前の「ポートボール、ラインサッカー、ハンドベースボール」が、改訂後は「バスケットボール型ゲーム、サッカー型ゲーム、ベースボール型ゲーム、加えてバレーボール型ゲームなどその他の運動」に変わっている。「〜型ゲーム」や「その他の運動」という表現は、様々なスポーツ種目を取り入れていく姿勢を表明している。これまで学校で指導されることのなかったスポーツにも、門戸が開かれたと認識すべきだろう。「水辺活動」と体育という側面からは、地域にもよるが、ヨット、カヌー、ライフセービングといったスポーツが新たに授業に取り入れられる可能性を示している。

学校体育で取り扱うスポーツの裾野が広がりつつある。裏返せば、これまで学校体育と縁のなかったスポーツ団体が、普及人口を飛躍的に伸ばす絶好の機会だとも言えるのである。

 

一輪車とソフトバレーボール

 

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写真提供:日本一輪車協会

 

かつて、学校への積極的な働きかけが成功したスポーツがある。一輪車の急速な普及は小学校から始まったといっても過言ではない。

日本一輪車協会は昭和53年、愛好者たちが寄り集い、一輪車をスポーツとして普及しようと設立された。昭和56年から宝くじ協会の協力のもと、文部省や都道府県が指定する体力づくり推進校を皮切りに、全国の小学校に一輪車を寄付する活動を続けていった。そして、平成元年の学習指導要領改訂に先立ち、文部省に働きかけを行うとともに全国各地で学校教師を対象とした指導者講習会を開始。こうしてハード(一輪車)とソフト(指導する教師)が揃った学校が各地に出来上がっていった。サーカスの曲芸といった認識しかなかった一輪車が小学校で扱われる内容として普及していった背景には、地道でかつ積極的な活動があった。一輪車協会の菅野耕自事務局長は「用具を普及させたことと指導者の養成を協会が責任を持って行ったことが成功につながったのでは」と分析している。

今回の指導要領改訂で小学校の授業に新たに導入されることになったものに「バレーボール型ゲーム」がある。これまでバスケットボールやサッカーは認められていたが、バレーボールはボールが小学生には硬く、突き指などの危険があるとして除外されていた。日本バレーボール協会は、小学生にバレーボールを広めるため平成2年、同協会内に小学校教材推進委員会を設置し、安全で小学校の授業にも取り入れやすい用具とルールづくりに取り組み、ソフトバレーボールを考案、ルールも新たに作った。以降、ボールを寄付し、全国各地で講習会を開くなど、学校関係者への働きかけを続けてきた。今回の改訂で導入が決まったのも、こうした実績が認められた結果と言える。

この2つの成功例に共通するのは、用具の配布と指導者育成の徹底である。用具やルールが子どもにとって難しかったり、危険であったりする場合、ソフトバレーボールのような競技のアレンジも必要になる。

 

スポーツ指導者派遣も視野に入れて

 

多くの種目を学校体育に導入させるには、中学、高校ですでに実施され、一定の成果を挙げている体育の選択制授業をさらに充実させる必要がある。しかし、一人の教員が同時に複数の種目を指導するのは困難なことから、スポーツ団体は指導者を直接派遣することも検討するべきだろう。今回の学習指導要領の改訂では、開かれた学校づくりを進めるため、学校と地域社会との連携を深めることが求められていることから、学校側が特別非常勤講師の制度を利用し、地域にいる優秀なスポーツ選手(および元選手)を体育の授業や放課後の運動部活動などの指導者として活用するケースも考えられる。

子どもたちに様々なスポーツにふれる機会を与えることは、いわば人生の選択の幅を広げることにもなり、運動好きの人間が増えることでわが国のスポーツ人口を拡大することにもつながる有効な手段である。スポーツ団体は学校体育(授業・部活動)をサポートするとともに、今後各地で作られるであろう総合型地域スポーツクラブと密接に関わりながら、完全週休二日時代の余暇スポーツを実践できる場の提供という役割も担うことになるだろう。

新学習指導要領は小中学校で平成14年度、高校では15年度から実施される。ただし、移行措置として来年度からこれに準じた指導を行うことが許されている。学校側も新たな取り組みへの模索を始めている。熱心なスポーツ団体のアプローチを心待ちにしているかもしれないのである。

 

 

 

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