(1) 静止画表示設計
海底地形情報には、上述の数値化された日本近海を対象にした500 mメッシュの水深データJ-EGG500等があるが、専門的でないユーザーにとっては使い難い面があり、等深線図や鳥瞰図のように図化された形の情報に対する要望が多い。ここでは、J-EGG500の成果を利用しながら、効率的に図化するのに適したデータセットを作成し、任意の海域を設定して等架線図を作成し、また任意の方向から見た鳥瞰図等を作成するソフトウエアを構築する。この成果によって、一般からの各種の要望に答えての水深に関する静止画像の提供が容易に行うことができるようになり、またMIRCの普及啓蒙活動を促進しえるものとなろう。
(2) 動画表示設計
普及啓蒙活動において、動画形式で情報を伝えることは非常に有効な手段である。これは、海底地形データの3次元鳥瞰図表示を用意し、自由に設定したパス上を移動する点から観察した地形の鳥瞰を動画形式(ウォークスルーアニメーション)で与えるソフトウエアの作成を行おうとするものである。観察点は単に一定速度で移動するばかりでなく、立ち止まって視野を上下左右に動かすこともできる。ソフトをワークステーション程度の計算機で動かすことを前提としており、そのため、扱える海底地形格子データは最大3000x3000の900万個を想定している。すでに、日本海の本州北部から北海道沖の海域を選んで、テスト的な動画は完成させている。このソフトを利用して、MIRCとしては将来、アニメや解説画面を加えた啓蒙用・教育用の動画の作成を行いたいと考えている。
水温アトラス・データセット
MIRCでは、すでに水温・塩分データを対象とした品質管理ソフトの開発を完成させている。この品質管理ソフトを用いて、すでにJODC/MIRCに収集されたデータベースのチェック・品質管理処理を行ってきており、また収集の遅れていた都道府県水産試験研究機関の膨大な観測資料にっいても、品質管理を行った上データベースに加えてきた。この拡大・整備されたデータベースを用いて、北西太平洋水温(塩分・密度)アトラスの作成を行うのがこの事業である。
すでに、全世界海洋に対して米国海洋データセンター(NODC)が1度メッシュで、World Ocean Atlas 1998を刊行しており、一部では1/4度メッシュのアトラスを用意しつつある。そこで、MIRCとしては、特に日本近海に焦点を当てて、より最近の観測データを加えて、海域の特性を考慮しながら、よりきめの細かいアトラスの作成を行いつつある。例えば、本州南方の紀伊半島・熊野灘沖での黒潮の流路に2つの安定流路、直進路と大蛇行路があり、いずれかの流路が実現するとその流路が数箇月から数年持続することが知られている。直進時と大蛇行時で海況が大きく異なることから、この海域では季節変化に応じた水温等の統計アトラスを求めるよりも、直進時と大蛇行時に分けた統計値をもとにアトラスを作成する必要がある。ただ統計値を得る場合、黒潮が2つの流路いずれをとっているかを客観的な資料をもとにして、機械的に分類する必要がある。そうして、その客観的資料は、実際の応用を考えた場合、リアルタイムで取得しえるようなものであることが望ましい。幸い、2つの黒潮流路のモニターは、潮岬を挟んだ2つの串本および浦神検潮所の観測水位の差によって行えることが知られている。従来、この対応は、月2回の海洋速報による黒潮流路の位置と半月平均の水位差の間で論じられていたが、最近の研究では数日スケールの、小蛇行の通過のような現象を対象とした日平均水位差にも用いられることが確かめられている。MIRCでは、この水位差によりデータを2つのグループに分け、また伊豆海嶺を横切る際の流路の北偏・南偏が八丈島・三宅島の潮位の高低によって判断できることから、それぞれをさらに2つに分け、都合4つの場合について水温アトラスの作成を行っている。