ADCPデータに含まれるエラーの中には、船底への送受波器の設置が正確に船首方向にマッチしていないとき、あるいは船のジャイロコンパスの設定にずれのあるときには、船速成分が混入して系統的な誤差を産み出すもの(浅海で海底からの反射波で船速を求める対地モードではこの効果は小さい)がある。この効果を補正するには、流れの弱い海域で1つの測線に沿った往復観測を行って、往路と復路での測流値の差から補正係数を求めておく必要がある。海上保安庁では、各巡視船に対して、少なくともドックでの船の整備が終わった後に1回、ADCPの補正係数を求めるための往復観測を行うことを要請することになっており、今後取得されるデータの質の向上が期待できる。しかし、そのためには現場で往復観測の結果から容易に補正係数を求めるソフト、その補正係数を用いて測得値を補正して正しい値を求めるソフトを作成提供しておく必要がある。補正係数の計算方法はすでに確立しているし、水路部においても研究者用のソフトは開発されている。しかし、往路と復路で観測線・観測点を完全に一致させた観測を行うことは事実上不可能であるため、従来のソフトでは観測点の対応のさせ方に、解析者の主観的な判断が要求されるなど、測流の専門家でない現場の担当者が直ちに利用できるものではなかった。MIRCでのソフト作成の方針は、この往復路の設定や選び方等、現場で判断せざるを得ないものは別として、測点のペアリングをはじめ全ての操作を自動化するとともに、非専門家でも容易に使えるものというものである。このソフトの開発は完了しており、すでに各管区海上保安本部に配布済である。
一般的な品質管理ソフトは、JODC/MIRCのデータ管理機関に収集されたデータの品質を判定し、品質フラグをつけるものである。これには、水温・塩分等の品質管理プログラムと同様に、必要情報の欠如の検出、測点の位置や時間等の基礎的な異常記載に関するもののチェックとして、測点が陸上にあるような場合を検出する海陸チェックや、見かけの船速が異常に大きい場合を検出する船速チェックを行うことが第1段階である。現在、サンプル・データを選んで、種々のエラーの発生状況を検討中であるが、ADCP測流において船速を海底にリファーして決める場合(浅海域:対地モード)と、人工衛星よる位置決めから算出する(外洋域:対水モード)の場合があるが、その識別信号が離散的に現れる場合には異常値が起こり易いことから、そのような場合はまずエラーフラグをつける。また、測器のウォーミングに時間を要することから、観測開始時の一定時間のデータにフラグを付して使わないようにすること、一連の観測値に一定の閾値を越えた非連続的数値が現れた場合にフラグをつける等のことを予定している。また、船首方向が急に変更された場合や、船速が急変化した場合に測定値に異常が現れることが知られているので、そのような場合には(弱い)エラーフラグをつけることになろう。船速が一定速度より遅くなると、測流値が不安定になるという報告もあるが、このような明確でないものについては、データの収集・統計の後、必要あれば検出操作をソフトに加えることになろう。このような若干の修正は、後に行うことになろうが、実用的なソフトウエアを2000度中に完成することが予定されている。