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灰色の寒い風に、水が単調なモノトーンでざわめいている。器楽のパートもずっと同じ音を異なったリズムで奏でていき、最後の部分でハープ、チェロ、クラリネットの順に旋律的な動きが生まれる。だが、その終わりの部分よりもむしろ、モノトーンの部分でのリズムや音の身振りが、じつにみごとなドラマとなっている。

第3曲「5月の風」は軽やかな3拍子にのせて、風が舞う。セリーを使いながらも、明るい楽想がめぐっていく中で、声のパートは途中まで言葉を台詞のように物語る。第2曲とともに、後のシアトリカルな作品を先取りしている。

 

ベリオ:セクエンツァXI(1987-88)、X(1984)、IXa(1980)

 

《セクエンツァ》はベリオの室内楽の中では最も有名なシリーズである。1958年にフルートのための第1番を作ってから、数年おきに1曲1曲と書きつづけ、現在、第13番まで完成されている。最新作は「シャンソン」と名づけられたアコーディオンの独奏曲。

タイトルのセクエンツァは本来、典礼音楽の続唱を意味する言葉で、独奏楽器の奏でる速い動きの楽想はたしかに続唱と似ている。だが、ベリオはこのタイトルでさらに、どの曲も一連の和声領域(sequence of harmonic fields)を出発点としていることを示している。メロディにより和声的な流れを形作って展開する一方、とくにもともとモノトーンの楽器ではポリフォニックな聴き方を促している。バッハの無伴奏ヴァイオリンや無伴奏チェロの組曲と同じく、ベリオの《セクエンツァ》も、単旋律を奏でる楽器によってポリフォニックな構造を形成しているのである。

どの曲にもヴィルトゥオーゾ風の難しい技巧が散りばめられているが、楽器の本性に逆らうような鳴らし方はいっさいない。そのあたりがリアリストであり、また伝統をたいせつにするベリオらしいところである。

ギターのための《セクエンツァXI》は、エリオット・フィスクのため1987年から88年にかけて作られた。2つの異なる和声の間に対話が演出されているのだが、演奏スタイルは激しくかき鳴らすフラメンコ・ギターと繊細な楽想を爪弾いていくクラシック・ギターの間を行き来している。情熱的かつファンタジックな曲だ。

C管のトランペットとピアノの共鳴のための《セクエンツァX》は、1984年、トーマス・スティーヴンスのために作曲された。ペダルを踏んだピアノの弦がトランペットの音に共鳴して、楽想にエコーがかかったような効果を作り出している。同音の反復を核として、複数のメロディがポリフォニックに、そして立体的に響いてくる。

クラリネットのための《セクエンツァ?a》は、1980年にミシェル・アリニョンのために書かれた(いつもの手順とは逆に、この《セクエンツァ》はクラリネットとディジタル・システムのための《シュマン》から、抽出された)。ここでは固定された音域で鳴る7音と、非常に動きの激しい5音という2つの異なった音高のグループの間で、たえず音が交換されて、変容していく。持続する音を核とする緩やかな楽想で始まると、しだいに高揚していき、途中、ポルタメントやトリルを効かせたり、ハーモニクスを響かせるといった特殊奏法も交えながら、緩急を繰り返していく。単旋律楽器でポリフォニーを実現している典型的な曲である。

 

ベリオ:リネア2台のピアノと2打楽器のための(1973)

 

2台のピアノとヴィブラフォン、マリンバのための《リネア》は、1973年、カティア&マリエル・ラベックとドルーエ、グァルダという2人の打楽器奏者のために作曲された。ピアノと打楽器の組み合わせというと、バルトークやストラヴィンスキーの音楽を思い出すが、20世紀の作品でよく行われてきたピアノの打楽器的な奏法は、ここでは影をひそめている。曲がはじまるとしばらくは、静かにユニゾンでメロディが歌われていく。冒頭の「夜の音楽」風の楽想には意表をつかれるかもしれない。「線」を意味するタイトルが暗示しているように、この4つの楽器から生まれる色彩感のあるソノリティから自然にメロディのラインが浮かび上がり、ポリフォニックなパッセージからひと塊の音響が立ち現れてくるところに、この曲の醍醐味があると言っていい。

全体は13楽章から構成され、「マネージュ(細工)」「アントレ(登場)」「アンサンブル」「コーダ」「アレグロ」「ノットゥルノ」と題された部分が数秒の休符を挟んだり、ときには休みなく続いていく。ユニゾンののち、各パートはそれぞれのモチーフを奏ではじめ、しだいに複雑なテクスチュアへと変容する。トリルや連打を交えながら、激しく音楽が高揚していくが、ポリフォニックにうごめいているパッセージも耳にはひとつの音色としてきこえるようになる。

 

 

 

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