この伴奏部は、時に異なった周期で同じ音型を重ねたり、あるいはユニゾンで動いたりするが、全ての音高がオーボエ・パートから抽出されたものであるために、全体としては非常に密度の濃い音響空間が現出することになる。
この意味で、ベリオの音楽に独特の「注釈」の技法(中心となるテクストや旋律に様々な装飾を加え、その可能性を余すところ無く汲み出していく手法)を、これほどはっきりと示している作品も珍しい。オーボエの音に対して、徹底的にまとわりつき注釈を加えていこうとする弦楽器群、そして、そこから必死で逃れようとするオーボエの独奏が10分間にわたってせめぎあう様子は、ベリオ作品の中でも屈指の緊張感をはらむものとなっている。
ジェミニアーニ:合奏協奏曲作品3-4ニ短調
フランチェスコ・ジェミニアーニ(1687-1762)は、コレッリとA.スカルラッティに学んだイタリアの作曲家。「合奏協奏曲」というのは、数人の独奏者グループと合奏の対比によって曲が進んでいく、バロック音楽に特有の形式だが、ジェミニアーニは師のコレッリのスタイルを基盤としながらも、より柔らかで可憐な性格をこのジャンルに与えることになった。
「第4番」は、ラルゴ楽章をはじめとして、全体にこうした特徴かよくうかがえる作品で、作曲者独特のきめ細かな和声法や息の長い旋律を十分に堪能することができる。
コレッリ:合奏協奏曲作品6-8ト短調「クリスマス」
アルカンジェ口・コレッリ(1653-1713)といえば、バロック時代を代表する巨匠の一人だが、生来の慎重さゆえか作品の数は意外なほどに少ない。しかし、その中でも作品6の合奏協奏曲集は、緻密な構成と品格の高さによって、後世の作曲家たちに大きな影響を与え、さらには音楽史にコレッリの名を深く刻み込むことになった。
全12曲からなる作品6の中でも、終楽章の後半で主の降誕を祝うパストラーレが置かれた第8番は、「クリスマス」の愛称で広く親しまれている作品。この最後の部分では、曲が短調から長調へと緩やかに変化するとともに、バグパイプを思わせる持続低音があらわれ、2本のヴァイオリンが穏やかな旋律を奏でていく。
トレッリ:トランペット協奏曲ニ長調
ジュゼッペ・トレッリ(1658-1709)の勤めていた、ボローニャの聖ペトロニオ大聖堂にはブランディという名のトランペットの名手が在籍していたという。おそらくは彼のために、トレッリは楽器編成にトランペットを含む作品を数多く残すことになった。
このニ長調のトランペット協奏曲もその一つで、両端楽章は典型的なリトルネロ形式をとり、独奏と弦楽器がかけあいを演じながら進んでいく。トランペットのパートは、簡素ながらも楽器の生理を十分に生かした、爽快な響きが特徴である(なお、当時のトランペットが限られた調でしか演奏できなかったことから、ロ短調の第2楽章は弦楽器のみで演奏される)。
ウィヴァルディ:合奏協奏曲《調和の霊感》より作品3-11ニ短調
《調和の霊感》は、アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)が、20代の終わりから30代にかけて書いた合奏協奏曲集である。自らのスタイルを確立する過程にあった作曲家の手によるだけに、全12曲には試行錯誤ともいえる様々な工夫が凝らされており、彼の音楽を考える上で興味の尽きない多彩さを備えたものとなっている。後にバッハがこの中から数曲を選んで編曲を施しているのも、それぞれの楽曲が持つ豊かな可能性を読みとったからであろう。
「第11番」は、中でも最も有名な作品。2本のヴァイオリンによるエコーのようなカノン(20世紀エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトの音楽と非常によく似ている)で幕をあけ主部へと進んでいくが、厳格なフーガの使用や硬質の響き、そして随所であらわれる半音階的な和声連結からは、「四季」の朗らかなヴィヴァルディとはまた異なった表情をうかがうことができる。