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「コンポージアム1999」で体験するベリオ

 

白石●「室内楽作品演奏会」で演奏される《フォークソングズ》の11曲も、楽しみにしているんです。あの曲集は演奏される機会も多いのですけれど、今回はべリオが「ぜひとも、この人に」と推薦するカステラーニさんが来日して、またちがった持ち味の中川共さんと交代しながら歌うことになっているので、2倍におもしろそう。

有田●やっぱり声の作品を聴かずしてベリオは語れませんよ! ベリオは、武満さんとの対談(92年)で「言葉は我々の〈存在の家〉であり、声はそのためのシグナルを発している」というフレーズを引いて、「声は、人間にとって最も重要な音の現象だ」と言っているんですが、それを読んでなるほどなぁと思ったんです。考えてみれば、人間は自分の声から絶対に逃れることができないわけですよね?耳をふさいで外の音をシャットアウトしても、自分の声は常に響きとして自分の中に存在している。その意味で、声というのは、その人そのものであるというか、人間のアイデンティティに深く関わっていると言えると思うんです。そう考えていくと、ベリオが声に執着しているのは、人間の存在そのもの、根源へのこだわりに思えて、すごくおもしろいなぁと思って。

今回はジョイスのテクストによる《室内楽》、谷川俊太郎さんの名訳による《作品番号第獣番》も入ってますから、ぜひ聴いてほしいですね。

 

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沼野●僕はやはり《アルテルナティム》に一番興味があります。演奏に関しても、この曲を捧げられたメイエが来日するのならと、ベリオは急遽プログラムに《作品120-1》も追加したということですから、かなり厚い信頼関係があるんじゃないでしょうか。

白石●ベリオが名誉会長をつとめる「アカデミア・ビザンチナ」の公演は、バロックとべリオが組み合わされたプログラムですから、イタリアの伝統的な音楽の中でベリオがどう響くかという聴き方もできますね。とくにこのグループは《セクエンツァVIII》の初演をしたヴァイオリンのカルロ・キアラッパが初代の指揮者で、ベリオもはじめのころにはよく指揮をしていたそうですから、彼らのベリオ解釈は折り紙つきです。彼らの最新アルバムは〈17世紀イタリア・バロックの遊戯〉で、当時のドイツの音楽家がテオルボを手にナポリからローマ、ヴェネツィアへと旅をしながら演奏家たちと共演していくイメージで作られた、なかなかすてきなCDです。オリジナル楽器による颯爽とした演奏が印象的でした。

沼野●さらに、ベリオがどのように作曲賞を審査するのかが楽しみですね。彼の譜面を見ていると、リアリストとしての側面を強く感じますが……。

白石●彼自身が優れた指揮者ですものね。

沼野●でも、彼が、新しい作品をどういった軸から評価するのか、僕にはまったく想像ができないのです。

有田●彼の書き方は「職人芸」と言われますが、それは自分のスタイルというものをちゃんと持っていて、それを素材や目的によって、適切に、きちっと書き分けることができるからなんじゃないかと思います。彼のようなタイプの作曲家は、当然それを他人にも要求するでしょうね。

あと、年齢制限についてベリオは、去年審査をしたリゲティとまったく逆の見方をしていましたよね。リゲティは、自分のスタイルを見つけるのに、35歳は若すぎると言い、逆にベリオはそれでまったく十分だと……それが、「伝統」に対する2人の距離の違いなのかな、と思って面白かったです。

沼野●そういう意味でも、この作曲賞の審査は、彼の耳と価値観を知ることのできる絶好の機会になるでしよう。

 

 

 

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