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4) コスト削減の困難性

内航事業者が荷主の要求する運賃に基づいて収益をあげるためにはコスト削減しかない。しかし、内航海運に対してはトラックなど他の輸送手段以上に安全性確保の要請がきびしく、乗船すべき船員の人数や船舶の定期検査義務等が法律で定められている。事業者の中には「内航海運をしばる法律が現行のままなら、もはや今以上のコスト削減は不可能」という声もあがっている。また、内航海運を利用する輸送では港湾の使用と荷役が必要であり、海上運送部分のコストダウンに加えて、これら港湾利用に関係する部分でのコストダウンも必要になる。しかし、割高な港湾費用や荷役費用は内航海運事業者の一存で削減できるものではないことも内航海運コストの削減をむずかしくしている要因と言えよう。

 

5) 事業者の事業継続意欲の低下

これまでに述べてきたように、内航海運事業者(特に貸渡専業者)の多くは収入の減少と収益率の低下に苦しんでおり、事業の将来についても明るい展望を持ちにくい状況である。そのため、アンケートにおいては内航海運事業から撤退したいという事業者が貸渡専業者では45%を占めている。さらに、一杯船主ではこの割合が51%と増加する。実に事業者のほぼ半数が事業を続けたくないと考えている。それにもかかわらず、事業から撤退しないのは「今やめると借金が残るだけだから」である。事業継続を断念した事業者に対して内航総連は転廃業助成金等の助成策を導入しているが、事業者によっては、現在の借入金は助成金だけではとうてい埋め合わすことができないほど大きい場合もある。

自己資本比率が小さく、経営基盤が弱いにもかかわらず事業者の基盤強化意識はあまり強くない。運賃は上がらず、貨物量の先行きも不安が多いなど、内航業界の将来展望は必ずしも明るくはないが、「やめるにやめられず」事業を続けている事業者が多い。また、協業化、集約化などの経営基盤強化方策に対しても積極性に欠ける傾向が強い。さらに、内航の制度(貸渡業と運送業にわかれている点)や契約における多重構造についても不満感を抱きながらやむを得ないものとして受入れ、強く不満を述べる事業者もそれほど多くない。

 

 

 

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