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はじめに

 

21世紀を目の前にした現在─

右肩上がりの経済成長は終焉し、社会の成熟化に伴い、国民の価値観も多様化し、社会経済構造は大きな変化を迎えている。

経済成長の鈍化、荷主の戦略的物流システムの構築の進展といった環境の変化は、物流業界にも新たな変革を迫っており、物流業における「規制緩和」は、こうした環境変化へのひとつの対応策である。

具体的には、トラック、利用運送事業、貨物鉄道事業、港湾運送事業、フェリー事業といった物流業について、「規制緩和」が行われ、あるいは行われることが決定されており、既に大きな変革を遂げている業界もある。

内航海運業についても、既に船腹調整事業が廃止され、まさに変革の途上にあるといえる。本調査研究は、かかる変革を踏まえて、内航海運業の「経営基盤強化」という古くて新しい課題に、今一度取り組んだものである。本編では、内航海運業界の実態をできるだけあるがままに浮き彫りにしたつもりであるが、研究の過程で、当初想像していた以上の厳しい現実が見えてきた。しかしながら、一方で、中長期的に見た場合、内航海運業界に対する「期待の高まり」と「将来性」というものも強く感じられた。

そこで、本編に入る前に、特に「規制緩和」という大きな環境変化を踏まえて、内航海運業界の将来像について概観してみたい。

 

1. 「原子力発電所」と「市場」

原子力発電所では、核分裂によるエネルギーを発電に利用しているものであるが、原子炉を正常に稼働させるためには、核分裂の状態を適切に維持しなければならない。仮に、核分裂が過度に起き、その膨大なエネルギーが制御できなくなった場合、原子炉自体が破壊されるおそれがある。したがって、過度に反応が起こった場合は、原子炉に制御棒を差し込むことにより、核分裂反応を抑制する必要がある。一方、核分裂反応が抑制され過ぎたときは、十分なエネルギーが得られないため、制御棒を引き抜き、反応を促進させ、出力を上げる必要がある。つまり、原子炉から安定したエネルギー出力を得るためには、制御棒による核分裂反応の適切な「抑制」と「促進」が必要となる。

 

「市場のエネルギー」と「制御棒」

「市場」というのは、ある意味でエネルギーそのものである。経済活動に対する規制は少ない方が、「市場原理」によるエネルギーは白熱する。全く規制のない状態では、市場のエネルギーは猛威を奮い、制御不可能となり、市場や社会の枠組自体を破壊してしまう可能性がある。一方、経済活動に「規制」がありすぎると、活力は失われ、エネルギーは衰退する。

経済活動における「規制」というのは、原子炉における「制御棒」ではないかと考える。「規制」をうまく使うことによって、市場における経済活動を「抑制」又は「促進」し、秩序のある安定的なエネルギー出力を可能とするのではないだろうか。

 

 

 

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