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一般には馴染みのない情報とデータ交換の話題ですが、平易な論文ですのでご紹介いたしました。第6論文は海賊に関する論文です。ロンドンの国際海事局本部のジャヤント・アビヤンカ氏が1997年11月に発表した「海賊に関する包括的報告」は、海賊の発生件数、被害、傾向、対策を国際海事局の統計資料をもとに分析した力作で、これまでに類例のない資料であることから、日本でも商船会社等の皆様の強い関心を引くと思います。第7論文「海賊の実態と対策」は、台湾の元海軍中将コー・トゥンファ(葛敦華)による1980年代の古典的論文です。第8論文は、小西岑生元自衛隊艦司令官・海将の「海洋資源と環境保護:早期警戒と事実調査」です。プロジェクトの研究委員会で発表された論文で、早期警戒と事実調査を日本の予防外交として位置付けています。

 

第2巻

 

第2巻には中国と韓国関係の論文をまとめました。中国の将来動向については、日・英・米・中・マレーシア・シンガポールの見解を紹介しました。

第9論文は、中国海軍に関する日本の分析で、岡部文雄元海上幕僚長・海将の「中国海軍の現状と将来」は、公開情報からの分析評価に歴史的事実からの考察を加えた力作です。第10論文は、平間洋一防衛大学教授の「中国海軍の過去・現在・未来:本格的海軍(Blue Water Navy)への発展とその問題点」です。第11論文は、ロンドンの国際戦略研究所海上防衛アナリストJohn Downing氏の「中国の海上権益および展望」です。新しいドクトリンに注目しながらも、中国の行動を歴史から捕え、孫子の兵法の国であるとの注意を怠っていません。第12論文は、シンガポールのブー・シー・キム氏の「中国の対南シナ海政策の変化」です。キム氏は、中国を、主権は堅持するが戦略・戦術的には柔軟と見ています。予想される通り、このシンガポールの論文は中国の意図に関して非常に好意的です。

第13論文は、南シナ海全体のシーパワー・バランスを包括的に論じた論文「1998年版:南シナ海のシーパワー・バランス」です。この論文は、川村純彦元統合幕僚学校副校長・海将補に寄稿をお願いいたしました。南シナ海沿岸諸国の状況のみならず、米豪のプレゼンスについても論じた論文です。第14論文は、中国の上海国際問題研究所Ji Guoxing氏の「尖閣諸島を巡る紛争と解決の見通し」です。中国の尖閣問題に関する立場を説明した後、歴史的事実に触れながら、共同開発への見通しを楽観的に語っています。第15論文は、アジアにおける海洋研究のもうひとつのメッカであるマレーシア海洋研究所のB. A. ハムザ所長が1997年に発表した、かなり思いきった中国批判論文「新冷戦の危険性:中国は脅威となるか」です。この論文には、日頃東南アジア諸国が考えてはいるが、公の場ではなかなか口にすることのなかった率直な中国批判がこめられている点が注目されます。第16論文は、国際法の権威のJ. チャーニー米ヴァンダービルト大学教授の論文「東アジア中部海域の境界と国連海洋法条約」です。この論文は、尖閣をめぐる日中の見解の相違に関する論文で、米国の視点で書かれていますが、やや中国に好意的と言えます。日本からの反論が必要でしょう。第17論文は、韓国海軍部が1993年5月に実施した第2回艦上討論会の記録(韓国語)「韓国の安全保障と周辺諸国の海軍力」の翻訳です。この長文の論文は、韓国海軍部が、冷戦後の米露日中海軍力をどのように見ているかを端的に示す貴重な資料です。第18、19論文は、韓国外務部の白珍鉱氏の北東アジアに関する論文2編です。「北東アジアにおける排他的経済水域および海上の境界線確定」は、法的行き詰まりと、これを打開する機能的アプローチを提案しています。「北東アジアの潜在的紛争要因:天然資源」は、漁業レジームの紛争と石油をめぐる紛争に関する議論がテーマとなっています。白珍鉱氏は、今後、韓国の若手論客として注目されますし、彼の主張に対しては日本の反論が必要でしょう。

 

 

 

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