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4:わが国に必要な国家戦略

 

1998年月6月26日、「中華人民共和国専管経済区および大陸棚法」が制定された。1992年2月に制定された「中華人民共和国領海および接続水域法」に続いて、中国大陸周辺海域での資源開発・経済活動などを保護するための法律であり、1996年に批准した「国連海洋法条約」に依拠して制定された。同法は第2条で、「中華人民共和国の大陸棚は、中華人民共和国の領海の外で、本国陸地領土からの自然延長のすべてであり、大陸縁辺外縁の海底区域の海床・底土まで延びている」と規定して、「大陸棚自然延長」の原則を確認している。大陸棚石油開発を支援する法整備が整えられている。また海洋資源・漁業資源の開発・利用、河口港湾施設の建設・管理、海洋汚染の観測・管理などに役立てる目的から、海洋衛星を打ち上げる計画を進めている。

筆者がこれまでしばしば書いてきたように、中国は早くから国家戦略として一貫して海洋戦略を推進し、中国周辺の海域に進出してきている。これに対してわが国は、これまで国家の主権に関わる領土問題を厄介な問題として先送りし、問題が起きると、その国との友好関係が重要であるとの理由から領土問題の解決を避けてきた。そればかりか日本政府はこれから行なわれる中国、韓国との政治交渉において、尖閣諸島、竹島について、北方領土にならって、「領土問題と漁業問題を切り離して、漁業交渉だけを進める」という消極的な態度をとっている。海洋法条約と同時に提出された一連の関連法案のなかには、水産資源、海洋汚染などに関する法律はあるが、大陸棚の資源開発に関する法案はない。200カイリ設定に対応する国家としての姿勢が整備されていないところに、有事を考えない日本国家の現実がよく現われている。

東シナ海の日中中間線の日本側の大陸棚には、1960年代末以降わが国の4社の石油開発企業が鉱区を設定し、先願権をえているが、日本政府が許可しないため、初歩的な調査も実施できないまま今日にいたっている。排他的経済水域・大陸棚の問題は、日本の主権的権利を侵す国から国益を守るために、日本政府が主権国家としての権利を行使できるかどうかにある。中国や韓国との関係を悪化させてはならないが、国益は確保しなければならない。

1999年における軍艦の出現は、中国海軍の訓練・演習が中国大陸が沿岸から次第に東シナ海の真ん中に広がり始めていることを示しているように思われる。今回の軍艦出現は、わが国の反応を見るためのいわば小手調べであり、わが国政府の対応が鈍く、世論の反応もなければ、次第にエスカレートするであろうし、小型の旧式艦艇とたかを括っていると、そのうちにもっと水準の高い艦艇や航空機が出現するさまざまな事態が考えられる。7月の艦艇は本格的な艦隊であり、李登輝総統の「国と国との特殊な関係」発言に対する威嚇という側面があり、同じ事態は今後十分にありうるが、当面最もありうる事態は、中間線日本側海域における石油開発の支援であろう。すでに書いたように、中国は日本側海域で試掘を実施し自噴を確認している。この海域は平湖油田の直ぐ南である。平湖油田のプラットフォームをわずか一週間で組み立てた実績から、この海域でも簡単にプラットフォームを組み立てるであろう。その時中国海軍が艦艇を展開して工事を護衛する事態は、十分にありうる。そのような事態を、わが国政府、防衛当局は考えているだろうか。わが国はその時の対応を考える時期に来ている。(了)

 

 

 

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