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「単収」増加を組織的に進めるためには科学的開発技術が必要である。その要請から生まれたのが「ハイブリッド」、つまり「雑種交配」技術である。これによって先進国は過剰生産に悩むほどの成功を納め、開発途上国は「緑の革命」の基礎を築くことができた。

しかし、世界農業が「ハイブリッド」による優良品種に収斂すれば、世界の食糧生産は地域特性を失い、共通の経済変動や気象変動に一様に反応し、生産や価格の変動を激化させる心配がある。また、農業生産が世界的規模で優良品種へ収斂すれば、品種の数は減少し、いわゆる「遺伝子侵食」が進行する。もし地球環境が激変することにでもなれば、生き残れる品種が消失してしまう恐れがある。

さらに、ハイブリッド品種は人工的なものだから、人間による支持がなければ生きていけない。「化学肥料」ばかりでなく、「農薬」や「機械」や「潅漑施設」を利用しなければ、この品種は育たない。農業は「工業化」され、工業の内包する困難な問題、「資源問題」や「環境問題」を農業に持ち込むことになった。これらの問題が発生したため、その解決をめぐって21世紀の食糧需給に楽観論と悲観論が対立している有様である。

 

3. 21世紀農業の可能性

 

その20世紀農業の欠陥を克服する打開策として「有機農法」があるが、有機農法は従来通りなら現状より収量を下げるので、これだけでは増加する世界人口を養う見通しが立たない。ある地域だけ無農薬にすることはできても、日本全体あるいは世界全体で農薬を使わないということになると、事態はいまのところ20世紀農業以前に戻ってしまう。

20世紀農業の欠陥を克服するもう一つの手段として「ハイテク農業」がある。海洋開発、宇宙開発、エレクトロニクスは「資源問題」と「環境問題」を極力回避できるような食糧増産の技術開発を試みている。しかし、なんといっても一番注目を集めているのは「バイオテクノロジー」である。

そのなかでも、「組織培養」や「受精卵移植」はすでに実用化されているが、いまのところ食糧全体の増産を確約できるほどの力はない。また、有性生殖のできない異品種を合成する「細胞融合」は、創出された品種の定着が不安定なため、増産は保証されていない。

「遺伝子組み替え操作」がいま一番期待されており、部分的には成功を収めているが、20世紀農業を克服できるという展望が開けるまでに開発に時間がかかりそうである。そのうえ、これは人工的な技術だから、いまのところ安全性の保証はない。したがって、21世紀の食糧見通しからは危機感を拭い去ることは依然としてできない状態にある。

そればかりではない。地球規模での「異常気象」の問題がある。この原因が宇宙レベルの物理現象なのか、人間活動による地球温暖化によるものなのか、いまのところ判然としていない。また、それが世界の食糧生産にとって不利になるという試算はあるが、その程度は必ずしも明確ではない。しかし、これが逼迫する21世紀の世界の食糧需給に不安の影を投影していることだけは確かである。

 

 

 

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