11:「物理的不足」は枯渇によるものではない
それから、質問をよろしいですか。「石油の物理的不足」はどのぐらいのレンジで捉えられているんですか。
十市 ここで言う「物理的不足」はいわゆる(一時的な)ディスラプションによる不足です。資源枯渇による不足ではないんです。石油はあるが、それが調達ができないという問題です。要するに中東の政治が不安定で、油が高くなるときに、ディスラプションが起きたときの問題です。かつての第一次オイルショック、第二次オイルショック、湾岸危機ということを想定したわけです。
12:2050年までは石油は枯渇しない
山本 わかりました。そういう意味があるわけだけれども、もっと長いレンジで考えた場合に、どうなりますか? 石油は未来永劫潤沢にあるわけではないのでしょう? いわゆる「エネルギー資源の枯渇」を考えた場合にはどうなるんですか?
十市 資源面のご質問ですね。石油には技術革新がともなっています。かつては「30年で枯渇する」といわれていたのが、いまは技術革新によって「40年ライン」を越えています。油の値段が上がっても、もっと早い速度で技術も進み、開発も進んだ。したがって、資源枯渇論は、いま非常に後退しているのです。非常にコストの安い資源、油が中東に偏在しておりまして、この事実は変わらない。現に半分ぐらいが中東です。経済原則の世界になればなるほど、安い資源から開発しようということになりますので、ものすごく資源があると言われている中央アジアの開発は進んでいません。今みたいに油の値が下がると中央アジアの石油は経済性を持たなくなってくるのです。そうするとやはり安い中東の資源に、世界のメジャーがまた殺到している。
だから、いまご質問があった資源枯渇論というのは100年、200年というオーダーなら、考えなければいけませんけれども、まあここ40、50年なら問題ない。
山本 そうすると、21世紀のあいだはもうむしろ開発で伸びていくので、しばらくは経済原理でいくから、それに力を入れる方が先だということですか。
十市 21世紀といっても前半の半分ぐらいですね、2050年までです。2100年まではちょっとわからない。
川村 戦略物資からコモディティ化したという背景がそこにあるんですか。
十市 そういうことです。
13:日本と中国は、シーレーン防衛で国益を共有する
川村 戦略理論からいいますと、中国は将来的には資源の問題が引き金になってどうしても外へ出てくる。特に石油資源、エネルギー資源は完全に外へ依存する。
いまは、中国は中央アジアのほうへ触手をのばしていますが、私はこっちのほうは注意深く見守っているわけです。
けれども、中国が日本同様に中東に依存する限りは、日本との競争はあっても、戦略的にみた場合には、日本と中国とは、シーレーンを守るという意味で国益を共有するわけですから、中国のビヘイビアを非常に協力的なものにすることはできるとおもうんです。