日本財団 図書館


平成8年度(1996年)から、防衛研究所を中心として「海洋安定化のための新たな海上防衛力の役割」に関する研究作業が実施された。

冷戦後の海洋には大海軍力の対峙といった緊張状態はないものの、ボーダレス化し過密化するシーレーンの防衛上の複雑性、資源乱獲と環境破壊、地域経済圏のターミナルとなる釜山、香港、シンガポールなど発展途上国にあるハブ港の脆弱性、過激化する海賊行為、資源や島嶼の領有を巡る紛争、国家管轄水域の境界画定における意見対立、等々、海洋を巡る安全保障環境は決して安定してはいない。そのような中で、人類と海洋との新たな関わりの在り方を規定する国連海洋法条約が発効した。

国連海洋法条約は、沿岸国に対し国家管轄水域内の資源に関する排他的権利や環境保護のための管轄権などを認めた上で、すべての海洋利用国に海洋資源・環境の保護義務を課している。国連海洋法条約の発効によって、海洋利用秩序の基本構造は「海洋自由」から「海洋管理」へと大きく変化することになった。しかし、必ずしもすべての沿岸国に海洋管理の能力があるとはいえず、一方、海洋資源への依存度の増大に伴って、国家管轄水域の境界画定や割り当て漁獲量を巡って国家間の意見の対立が顕在化している。国連海洋法条約には、「持続可能な海洋開発」と「海洋を巡る紛争の平和的解決」という基本理念、そのための、「国際協力」と「予防的アプローチ」の適用という基本原則があり、すべての海洋利用国に国益を超えての叡智が求められているが、資源へのナショナリズムなどが、そのような理想に基づく取り組みや提唱を阻害している。また、海洋資源・環境保護のための管轄権が「航行の自由」に何処まで影響を与え得るかについての国際的合意はなく、沿岸国家と海洋国家の間で、「海洋管理」と「海洋自由」の兼ね合いを巡る対立を生じさせつつある。「管理」は「自由」に一定の制限を加えるものとなる。「海洋管理」によって、海軍活動に制約が課せられ、延いては安全保障政策に影響が及ぶ事態も想定されなければならない。

海洋の安定的利用なくして、人類社会の持続性ある発展はあり得ない。海洋を巡る問題は相互に関連性をもっており、総体として捉えなければならない。海洋の安定的利用には、海洋を総体として捉えて総合的に管理する態勢と、それを支える海上防衛力の貢献が必要となる。海洋と関わりを持つあらゆる主体による、つまり、オーシャン・ガバナンスによる「海洋の総合管理」と、その中における、海上防衛力の意義・役割についての検討がなされなければならず、海洋国家日本のリーダーシップが発揮されなければならない。

以上のような観点に立てば、海上防衛力には、「抑止」や「侵略対処」といった本来の役割の他に、例えば、信頼醸成や武力紛争の予防を目的とするような活動や、国連海洋法条約に基づく「海洋管理」への参画等によって、海洋を安定的に利用し得る状態に維持する、つまり「海洋安定化」に貢献するような役割も必要となってくるはずである。

このような認識に基づき、海洋安定化に貢献する海上防衛力の役割について研究されたのがOPKである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION