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ところがマクドゥーガル教授の考え方は違います。ポリシーがしっかりしているかどうかが問題だと言うんです。これはマクドゥーガルばかりか、ソ連もそうですし、中国もそういうところがあります。彼らの立場は「国際法の学者は文句をいうが、戦後50年間戦争を避けてきたのはポリシーのおかげじゃないか。国際法学者の世話にはなっておらん」という考え方です。それがソ連とアメリカの言い分ですね。

したがって、米国では、ポリシーなき国際法原則の適用は非常に危険だと教え込むのです。そのようなマクドゥーガル教授の思想が弟子から弟子に伝わっています。

国際司法裁判所の小田滋さんは日本から行ったマクドゥーガル教授の第一のお弟子さんで、私が二番目に行きました。小田さんはマクドゥーガル教授に最後まで反対されて、「とにかく私は横田理論でいく」と主張を変えませんでした。マクドゥーガル教授のところでドクターをとられて帰ってきたんですが、マクドゥーガル教授も「こいつはいうことを聞かないから、しょうがない、ドクターをやる」と言ったというエピソードがあるんです。

しかし小田先生も最近の国際司法裁判所での判決文を読みますと、結構ポリシー論が入っていますね。小田先生はいつも少数意見を出されるんですが、単なる規定があるからといって、その規定を盲目的に適用しない。特に核兵器の使用の妥当性については、小田先生は核の抑止力を明らかに強調されておられる。同時に実定法という厳然たる法例を非常に重視される。そうやって小田先生は両刀使いなんです。

それからもうひとりの弟子は、イギリスから出たローザリン・ヒギンズという国際司法裁判所で最初の女性判事ですが、この人はマクドゥーガル教授の秘蔵っ子でトップ・レイディです。それからシュウェーベル国際司法裁判所長官がいます。彼が現在の国際司法裁判所長官ですが、その昔ハーバードの助教授のときに小田さんと一緒に勉強された。彼は、エールでのマクドゥーガル教授の学生で、ハーバードに行って、そこから国際司法裁判所に入った人です。彼もマクドゥーガル理論の信奉者ですね。

シュウェーベル長官にどういうふうにマクドゥーガル理論が出るかというと、マクドゥーガル教授の言葉を使わないけれど、ポリシー論を展開するからわかるのです。主張の内容は同じですが、言葉が違うんです。

 

41:現実がポリシー論で動いているのは間違いない

 

いまアメリカへ行きますと、国際法その他の法律はほとんど「○○とポリシー」です。「ポリシー・サイエンス・アンド・○○」となっている。これを嘆く学者も多いのですが、しかし現実がポリシー論で動いているのは間違いないことです。

アメリカ人というのは、非常にはっきりしています。国際法そのものにポリシーが内在する現実を見ています。具体的紛争に関しても、二つの原則が対立した形で常に外交が展開される。どっちが勝つかというと、その時に強いほうが勝つ。両方とも水かけ論ですからね。

慣習法の形成でもアメリカの現実主義についての話があります。日本とアメリカは「200カイリ」に最後の最後まで反対した。

 

 

 

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