ところが、戦後は、これが二次的に通商政策のツールとして、あるいは国威発揚の道具として使われた。そして、高度経済成長の隘路解消のための国際収支改善の手段としても使われたのです。ところが、石油ショック後は、石油危機で石油の消費が減りまして、船が余ってきた。船腹の大幅過剰が表面化したわけです。そこで、石油の備蓄用のタンクに船がつかわれるという、それまでには考えもしなかった使われ方をしました。その結果、日本ばかりか先進国の船員の競争力が非常に弱くなった。そして、いまや、海運政策は、海運全体よりも個別の海運企業の救済にその関心が移っている。つまり、つぶれていく海運企業をどうやって救済するか、例えば三光汽船の例を出されましたけれども、そういうことになっています、というのが歴史的な流れでした。
7:海運秩序の無政府化
二番目に高瀬さんが指摘されましたのは、海運秩序の無政府化ということでしたが、4つのポイントを指摘されました。
1) まず便宜置籍船が非常に多くなってきたことです。そのため、かつてのように船を監督する仕組みがなくなってしまった。かつてはフラッグ・ステート・コントロールであった。船の船籍が置かれている国が監督していたのですが、今度はだんだんそれができなくなって、今はポート・ステート・コントロールになってきている。船が行くところの先々の港でのコントロールというかたちになってきましたということです。
2) 二番目に、経済至上主義が規律の喪失をもたらしているということです。保険の話がでましたが、以前はしっかりした保険会社があって、そこの保険に入っていないと航海に出られなかった。ところが、いまは、保険の自由化が進んだので、とんでもない保険会社が増えて、どんなぼろ船でも保険を引き受けてくれるようになった。とんでもない船が走っている。そして、事故が起こったときは保険会社は潰れてしまい、誰も責任を負おうとしない。そういう世界になってきました。これは保険の話です。
3) いまの話と同じことですが、三番目に高瀬さんが指摘されたのが船のほうの話で、サブスタンダード船の跳梁です。たとえて言うと、日本ではとても車検にも通らないようなぼろぼろな船がまだまだ世界中を走っている。そのひとつの例が事故を起こして環境を汚染したナホトカ号でありました。
4) 四番目に指摘されたのが、先進国で伝統的な海技伝承がなくなってきているということです。先進国が、賃金の安い船員を探してきて雇うようになった。例えば、かつては全員日本の船員だったのが、三分の一以下の賃金で雇えるフィリピンや東南アジア諸国の船員の進出で、船員構成も様変わりした。そうなると、だんだん国としての伝統が失われ、船員の質の低下が事故にもつながりかねない。そして事故によって地球環境問題への悪影響も起こる。そしてもうひとつ、東南アジアの海域で海賊が跳梁していますということも指摘されました。