第5章 小型鯨類および模擬鯨肉への装着実験
5-1. サクション・カップ(吸盤)方式装着実験
設計・試作検討において採用された3種類の試作サクションカップを用いて、鴨川シーワールドの飼育イルカを使用し実装着実験を行ったので、その結果を以下に報告する。
(1) 供試個体
実験に使用したイルカは鴨川シーワールドで飼育している雄のバンドウイルカである。供試個体のデータを表5-1-1に示した。
(2) 実験場所
装着実験は鴨川シーワールド内のイルカ飼育・展示水槽「イルカの海」(図5-1-1)のII水槽(水量347t)で行った。この水槽は床を上下させ水深を自由に設定できる装置を備えている。
(3) 実験手順
1) 実験実施水槽の可動床操作装置を起動し、水深を3.5mから約60cmまで上昇させた。
2) 飼育係員2ないし3名で供試個体を保定し、背ビレ横の体側にサクションカップを取り付けた。
3) 装着後直ちに床を下げ、供試個体の行動とサクションカップ脱落までの装着状況をVTRおよび写真で記録した。
4) 手順1・3を繰り返し、3タイプ共各2回の装着実験を行った。(図5-1-2)
(4) 使用試作品
本装着実験に使用したサクションカップは、設計・試作検討において採用され、吸着強度を確認(表4-2-2参照)した3種類の試作品である。
(5) 実験結果
各サクションカップの実験経過を表5-1-2、3、4に示す。
装着時間はシリンジタイプと埋め込みタイプ1の11分が最長であった。
実験中供試個体と同居個体の接触は観察されず、同居個体の影響によりサクションカップが脱落することはなかった。
全てのサクションカップ共に、脱落は供試個体のきりもみ遊泳および高速遊泳の際に起きた。
(6) 考察
吸着強度試験の結果に大きな差が認められていたシリンジタイプと埋め込みタイプ1の装着時間に差異がなかったことは、生物への吸着が器物平滑面への吸着とは状況が異なることを裏付けている。脱落時には遊泳に伴い発生する、水抵抗を消去するためのイルカの体表のしわ(鯨斑)により、サクションカップが体表を尾ビレ方向に滑りながら移動する現象が観察されていることから、本実験での脱落はサクションカップのズレに起因するものと考えられた。器物平滑面には強固に吸着している吸盤でも、吸着面上をずらすことは比較的容易であるので、水生生物である鯨類へのサクションカップ装着に際しては、ズレの防止が重要なポイントとなるものと思われた。従って、サクションカップのみによる長時間吸着を期待することは、生物体表面上の変化から、まず困難なことと思われるので、いずれの方式を採用したとしても、鯨体皮下へのピン打ち込み方式を併用することが望ましい装着方式であろうと考えられた。
なお今回の試作・実験を行った複数のサクションカップ方式は、さらなる時間をかけての改良を行うならば、実用に供するレベルまでの具現化も可能であろうと思われる。