正確な中層水温図が、漁場での操業位置決定に有効であることは、水産庁の研究事業として行われた、北太平洋におけるアカイカ好漁場探索調査報告書(平成7年3月)にも示されているところである。
中層水温情報が有用なことから、漁業情報サービスセンターは1ヶ月に2回、情報を発信している。しかしながら、情報源が少ないため(現在、調査船、試験船の他、一般商船にも依託して計測しているが、商船航路は広大な洋上の1つの線に固定されている)、漁船の活動海域を十分にカバーすることができていないのは、現状ではやむを得ないことである。
したがって、漁業に関する海洋情報の整備により、これまで達成できなかった効率的な漁業生産を可能にすることができる。
2-2. くじらの生態挙動特性と装着方式に対する技術的要請
2-2-1. 鯨類の回遊・行動パターンの特徴
くじら類の生態挙動や回遊パターンは、他の動物と同じように、摂餌・繁殖・種間および個体間競争、の3要素によっている。このうち、繁殖海域については沿岸性のヒゲクジラ類であるザトウクジラ、セミクジラ、コククジラに関して多少明らかになった程度で、外洋性のシロナガスクジラやミンククジラについてはほとんど未解明の状態である。
詳細な回遊ルートすなわち水平方向の移動範囲は未解明であるが、たとえばザトウクジラは、極地圏水域を索餌場とし、熱帯圏水域を繁殖場とするものが多いということが、これまでの各種調査で知られている。また、北半球のくじらと南半球のくじらは、その回遊パターンから混じり合うことはない。極地圏水域での春先の植物プランクトンの爆発的繁殖に触発される動物プランクトン等の餌生物を追い求めて索餌し、熱帯圏水域で繁殖する。餌生物の緯度別分布からも、その回遊パターンが裏付けられる。
他方、海中の鉛直方向の移動範囲であるが、表層から水深数1,000mまで移動するといわれる。鯨類は、哺乳動物であるから、呼吸のため数10分から数時間間隔で浮上するが、逆に、潜水深度は、水深数100mから種類によってはマッコウクジラのように3,000mまで潜る。小型鯨類のイルカでも、たとえばマイルカのように水深0m-80mの間を深浅回遊する。これらの数字は、主として捕獲鯨類の胃の内容物からその餌生物の生息深度域を割り出して推定されているものである。
2-2-2. 装着方式に対する技術的要請
このようにくじらの生態挙動からして、これに装着するデータ収集・送信用曳航体のシステムに対して設計、製作、運用上の技術的要請が数多くあるので、それらを整理することとした。全体的な関係を総括して図表を示しておいたが、概要を解説すると以下のようである。(図2-4、表2-2)