コスト上の問題については、50万円レベルのブイ・システムは垂下式センサの付いていない単純なタイプのものが多く、中層水深までの垂下式センサライン付きであっても上記のような制約がある。
したがって、コストは若干上回っても、くじらに装着した海洋情報の収集は、これらの不備や制約を補って余りあり、くじらの生態挙動、好適水温や水深、塩分、海流との関係、さらには鯨の餌生物にあたる魚介類の漁場形成情報の基礎が得られ、海洋調査研究上の寄与は計り知れないものがある。
(2) プランクトン発生海域や湧昇域、海流変動点、流氷変動域の解明への寄与
くじらの摂餌行動には、海洋前線型、渦流域型、湧昇海域型のパターンがあるので、その行動を追跡すれば、これらの海洋現象の把握に大きく寄与しうる。こうして得られるであろうデータから、さらに詳細な研究観測のシーズやテーマが導き出されることになり、海洋研究の裾野を広く拡大できる。
また、高緯度回遊ではプランクトンの爆発的発生海域の把握や、アイス・パック域に沿った回遊パターンから、流氷域の変動も明らかにしうるものと考えられる。このことは、気候変動の調査観測研究にも役に立つことを示唆している。
2-1-3. 漁業に関する海洋情報への貢献
今後わが国の漁業を抜本的に合理化された経営体質に置き換えていくために必要な事項の一つとして、漁業に関する海洋情報整備があげられている。
現在、社団法人漁業情報サービスセンターが定期的に提供している人工衛星(NOAA)利用による漁海況図(図2-3)は、漁業界に広く活用されている。これは、アメリカの気象衛星「NOAA」等による海表面温度情報をべースとして、漁業情報サービスセンターのノウハウを加えて作成されたもので、海洋表層の潮の境目などが明確にされているため、漁船に操業位置選定の指針を与えている。
しかし、この有用な情報システムにも次の二つの問題点がある。
i) このシステムに使用している衛星は可視光線によって計測しているため、夜間および曇天時は運用できないこと。そのため、冬期北太平洋のように晴天日数が10%以下しかない海域では、事実上使用できない。
「) 水温計測層が海表層数ミリメートルであるため、魚種によって棲息水深が中層以下(例えばアカイカ)の場合は、魚群位置推定効果が少なくなること。
既に知られているように、海洋では暖流、寒流などの流れがあり、深さによって水温が急に変化するが、この水温が急に変わる層を「水温躍層」という。
漁船操業位置決定のためには、この水温躍層の下層の潮目情報があれば、各種漁船の運用効果は飛躍的に高まり、その漁業経営への貢献は計り知れないものがあると考えられる。