(6) アメリカマナティ:ベルト曳航方式
アメリカマナティは合衆国南東の熱帯・亜熱帯の沿岸、メキシコ湾、カリブ海、南アメリカの北西大西洋沿岸の、海域、汽水域、淡水域に分布する海牛類の1種で、絶滅危惧種に指定されている。行動はゆったりとして活発ではなく、たいていは単独または6頭までの群でいるが寒い気候の時などは発電所の温排水口など温水の出る場所に大群で集合することがある。ホテイアオイや海草を食する草食動物である。過去においては乱獲が原因で、そして現在は無制限な沿岸域開発による生息環境の破壊、高速プレジャーボートとの衝突による死傷で絶滅の可能性が高くなっている。
C.T.Deutch et al.(1998)はアメリカマナティのバイオテレメトリ実験の変遷について以下のように整理している。
マナティのバイオテレメトリ実験は1970年代後半から始まった。初期の実験はマナティの脚部先端に取り付けたベルトにVHF送信機封入した標識(Radio tag)を連結し、方向探知器で追跡するもので、淡水域で行われた(J.L.Bengton ; 1981, A.B.Irvine and M.D.Scott ; 1984)。
1980年代初頭になると標識は改良され、送信機は水面浮動式の耐水性ハウジングに封入されるようになり、マナティの潜水深度が2m以上になっても送信可能となった。なお、標識の装着は従来と同様であった(G.B.Rathbun et al. ; 1987, 1990)。
VHF送信機はTelonics社製のモデルMOD-550(出力;50オーム負荷で15mw)が使用され、直径6cm、長さ33cmのPCVハウジングに封入された。アンテナは軟質素材でできており長さ33cm、1/4波長対応型で、電池寿命は24ヶ月、有効送信距離は15kmであった。
1985年になるとARGOS PTTを円筒形ハウジングに封入した標識が開発され、追跡技術は飛躍的に進歩した。装着方法は原理的に変化ないものの、かなり改良されマナティの行動への影響は、極めて低減されるようになった(B.R.Mate et al.; 1985、J.P.Reid and T.J.O'Shea ; 1989)。
ARGOS PTTは、Telonics社製のモデルST-3、ST-14(出力;50オーム負荷で1w、401.650MHz送信)が使用され、PCVハウジングかUHMWポリエチレンハウジング(直径9cm、長さ39cm)に封入される。アンテナは軟質素材で長さ18cm、1/4波長対応、電源はD型リチウム電池で寿命は6.5〜9ヶ月(1日8時間電源ON状態で56〜66秒毎に360msecで送信)である。
1988年以降はPTTハウジングに超音波ビーコン(Sonotronic社製モデルCHP-87L)が追加装備されるようになり、マナティ確認の補助的手段および脱落したPTT標識の探索等に効果を上げている。この超音波ビーコンは周波数72〜79KHzの不連続のパルス間隔(0.809〜1.517秒)で、各PTT標識毎に特定のパターンを発信し、識別可能となっている。有効距離は400m以内である。
現在行われているマナティへの標識装着方法は<図1-17>に示すように、脚部にぴったりと止められたベルトに水面浮動式の標識をロープを介して接続する、曳航法が用いられている。ベルトはネオプレーンゴム製で、内径1インチのラッテクスチューブでカバーされており、皮膚を傷つけないよう配慮されている。ベルトの締め付け固定は特別に設計されたバックルで行う。バックルのボルト・ナットは腐食性合金で、最大4年でベルトは脱落するようになっており、ある程度張力が掛かったときは自動的にはずれる構造である。ベルトと標識を連結するロープは直径9.5mm、長さ1.3〜2mのフレキシブルなナイロンロッドである。