放流実験は6回実施され、そのうち3回までは不成功であった。4回目は放流後4日目に電波標識が脱落した。5・6回目は良好な結果を得ることができた。図1-9にARGOSシステムで追跡した放流後のイルカの移動状況を示す。放流されたイルカはしばらく(10日間)は放流地点の沿岸域に滞留し、その後沖合いに出て黒潮を横切るように南下した。
b) 遠洋水産研究所の最近の研究事例
馬場ら(1998)は、1994〜96年に、バンドウイルカ(2頭)およびスジイルカ(8頭)にPTTを装着し、アルゴスシステムを用いて追跡調査を行なった。バンドウイルカでは46〜66日間、スジイルカでは4〜18日間の追跡データを得た。
実験に供したバンドウイルカは2頭とも雌成獣で、その体長は240cmと271cm、スジイルカは2頭が雌成獣で大きさはそれぞれ215cmと232cm、6頭が雄成獣で204〜241cmであった。
使用したPTTは東洋通信機(株)製のT-2038型で、位置情報のみの測定であり、ステンレス円筒型とエポキシ封入型の2つがある。
ステンレス円筒型は1994〜95年の実験と1996年の実験で使用した。1994〜95年の時は長さ18〜19cm、直径3.5cm、空中重量705〜900g、出力0.5〜1.0Wで、1996年の実験で使用したステンレス円筒型PTTの装着は、ポリプロピレン製またはポリスチレン製のハーネスにプラスチックストラップで固定した。
ハーネスのサイズは、バンドウイルカ用が、長さ47cm、直径20cm、空中重量1320〜1460g、スジイルカ用が長さ32〜38cm、直径19〜22cm、空中重量705〜900gである。いずれのハーネスも厚さ5mmのネオプレーンゴムを内貼りし、PTTを含む総重量は975〜1750gになるが、水中では0または僅かにマイナスである。バンドウイルカへのハーネス装着は背鰭に2本のボルトで固定するとともに、幅5cmのベルトをプラスチックストラップを介して、背鰭の前後において胴に締め付けて固定する。スジイルカへのハーネスの装着は、背鰭に1本のボルトで固定するとともに、1本のベルトで背鰭前部の胴を締め付けて固定する。ハーネスはバンドウイルカの場合で9〜10分、スジイルカの場合で2〜10分であった。
エポキシ封入型PTTはスジイルカの背ビレに2本のボルトで固定した。装着所要時間は3〜7分であった。