発信器は、漂流ブイ用送信機を改良したT-2014型発信器を開発した。その形状は長さ300mm×直径46mmの2本の硬質アルミニウム製の円筒の一方に送信回路を、他方に電池を組み込み、両者をケーブルで接続したものである。重量は電池の数により異なり、1200〜1600gの範囲である。送信出力は1〜2ワット、電力消費の節約からイルカが浮上したときだけ電波を出すよう浮上検出スイッチを付けた。送信間隔は45.5秒以上で寿命は30日以上、耐圧水深は500mとした。アンテナはλ/2ホイップ型で、ステンレス鋼線で柔軟性を持たせた。発信器の位置測定精度は南北±500m、東西±1kmであった。
イルカへの発信器の装着は「ハーネス式」としたが、ベルトを胴体にまわして固定するだけでなく、背ビレにボルトを貫通させて固定する方法も併用できるように工夫されている。
ハーネスは2〜3mm厚のポリプロピレン製で、内側全面にウエットスーツ用のネオプレインゴムを貼り付け、イルカの皮膚を傷つけないように配慮されている。<図1-8>
飼育イルカへの装着予備実験により、ハーネスの適合性、ベルトの材質、貫通ボルトの背ビレへの影響、ハーネス装着による行動への影響を検討した。
この実験の要点は以下のように整理される。
─ハーネスによる体表面への損傷は、背鰭基部とハーネス後側部に発生した。これはハーネス前部が流水抵抗で持ち上がることによると考えられ、ベルトの改良と後端部のネオプレインゴムの厚さを増すことで対応した。
─ベルトの材質は5種類について吟味した結果、クレモナ製の幅3.5cmベルトの内側にネオプレインゴムを貼り付けたもの、および幅5cmの伸縮性ベルトをクレモナベルトの間に縫い込んだものとの2種類を採用した。胴ベルトのみでハーネスを装着した場合、イルカ放流後1ヶ月弱で脱落したため、ハーネス前部の持ち上がり防止策として、プラスチックベルトでハーネスを背鰭に固定したところ、2ヶ月あまりで背鰭はかなり損傷を受けた。
─ボルトによるハーネスの固定は、背鰭に直径8mmの穴を3ヶ所開け、ボルトをテフロンチューブで被覆し、緩み止めのついたナットで締めるもので、胴ベルトと併用して装着した。1ヶ月後にハーネスを外し、背鰭を検査したところ、穿孔部位からの出血が認められた。
─ハーネス装着後数日間はイルカの行動に明らかな影響が認められるが、それ以降は徐々に慣れてゆくと思われる。飼育条件下でハーネスを装着した場合、1〜2ヶ月でかなりの付着生物のハーネスへの着生が認められた。また、ハーネスを装着させたイルカは、他のイルカから警戒され、単独で行動するようになる。