(3) セミクジラ:浮上検知器付きタグ装着の例
C.K.Slay and S.D.Kraus(1998)は、Watkinsの開発した埋め込み式標識をより小型化したものを開発し、1995年ファンディー湾で試作品のテストを行い、更に改良を加えた。1996〜97年に、この超小型標識を15頭のセミクジラに装着した。発信機はチタニウム製の円筒型ハウジング(長さ18cm、前部15cmは直径2cm、後部3cmは直径2.5cm)に収納される。これをセミクジラの表皮下12〜15cmの深さに、クロスボーを用いてわずかに角度を付けて打ち込む方式である。くじらの接近は小型船艇(全長4m、機関40馬力)でゆっくりと近づいてゆくものである。くじらの脂肪層に斜めに打ち込まれた標識は一部が表皮上に露出しており、その部分にアンテナが取り付けてある。このアンテナ部に浮上を検出する浮上検知器(Saltwater Switch)が取り付けられており、海面に浮上したときに作動して発信する。
(4) トックリクジラ:サクションカップ方式によるTDR装着事例
D.H.Chadwik(1998)はカナダ東岸のノバスコンア州沖の北大西洋において、トックリクジラにクロスボーを用いて、無線発信機と潜水記録計(TDR)を組み込んだ標識の装着を行い、28時間の行動記録を取得した。これは先端にゴム製のサクションカップが付いた矢に標識を取り付け、これをクロスボーでくじらの背をめがけて発射して吸着させたものである。
標識は8〜10時間で脱落、浮上し、位置を知らせる電波(VHF)を発信する。船上の方向探知機で電波を受信したら、回収に向かう。<図1-4、5参照>
(5) キタトックリクジラ:サクションカップ方式によるTDR装着事例
カナダのダルハージ大学のS.K.Hooker(1999)は、1988〜1998年にわたってGully海峡において、キタトックリクジラにサクションカップを利用して時間―水深記録器を内挿したVHFラジオタグを装着し、索餌行動や分布様式を調査した。また写真による目視確認やラジオタグによる追跡で、Gully海峡におけるキタトックリクジラの行動パターンや移動範囲を調査した。
彼らは約80分に一度、800mを超える潜水(最高1,453m)を行い、潜水時間は最長70分であった。タグを付けていない個体をソーナーで追跡した結果、このような潜水は決して稀ではなく、多くの場合、海底近くまで潜水していることが明らかになった。
キタトックリクジラの一日の行動量は僅かで4km/day程度、数時間ないし数日間でも20km2の範囲に留まっていた。このような行動範囲の狭さは海洋性のハクジラ類としては珍しく、Gully海峡が彼らにとって有益で安定した餌場となっていることを示している。