(2) シロナガスクジラ:クロスボウ打ち込み式
B.R.Mate and B.A.Lagrequist(1999)は、1994年から95年にかけて、南カリフォルニア海域で10頭のシロナガスクジラにARGOSシステムを用いたタグを装着し、人工衛星による追跡を行ない、以下の3点を明らかにした。<表1-3>
1] 夏季の終わりの索餌期の行動
2] 秋季の南下回遊時のルートおよび移動速度
3] 冬季の出産、育児の海域
迫跡は5.1〜78.1日、393〜8,668kmに及び、平均移動速度は58〜172km/day(2.4〜7.2km/hour)であった。
調査方法は、ARGOS data location and collection system を用いて、タグからUHF信号を2基のNOAA TIROS-N気象衛星に向け送信し、追跡するもので、衛星が最も頻繁に上空を飛来する時間に送信が行われるよう設定した。測位はServis ARGOSを通じて、ドップラーシフト送信によって行った。
タグの装着方式については、全長5.5mのゴムボートからクロスボウにより発射して打ち込む。タグは2種類あり、大型タグ(直径50mm、長さ190mm)は深度情報を送信するもので、小型タグ(直径50mm、長さ170mm)は測位専用である。いずれもステンレス製のシリンダー型ハウジングの両端に先端の鋭利なステンレスロッド(返しが付いている)が直角に取り付けられており、くじらの皮下脂肪層に貫入するようになっている。内挿される送信機はTeronics社のST-6型とST-10型である。
測位データの精度は、衛星が水平線を上ってから水平線に沈むまで(最大16分、平均10分)の間に受信された回数と受信間隔によって決まる。ARGOSシステムでは精度に関してクラス区分されている(LC-0,1,2,3,A,B)。
タグ装着は1994年および1995年の8〜10月に南カリフォルニアのSanta Rosa, San miguel, San Nickolas島で行った。追跡結果を図1-3(1)〜(2)に示した。
各鯨体の1日当たりの測位回数はタグの種類、送信反復速度、送信動作周期、くじらの水面での行動パターンによって決まる。大型深度用タグは、平均10.3±5.20日間(n=3)装着、小型測位用タグは平均28.6±24.11日間(n=7)装着していた。
くじらの移動速度は58〜172km/day,平均108±33.3km/dayであった。回帰分析によると個々のくじらの速度と1日当たりの測位データ数との間には有意な相関関係が認められた(r2=0.53、p=0.08)。タグ装着後の速度は、どのくじらも前と後とで大きな差は認められなかった。カリフォルニア沿岸でのシロナガスクジラの行動をみると、ほとんどのくじらに測位点の集中が生じている(FIG1〜4)。西Santa Barbara海峡の8頭のくじらはこの海域を出るのに1.0〜10.6日(平均4.2±2.90日)かかっている。San Nicholas島の北西で標識された2頭のクジラ(# 2、# 3)はかなりの遠距離移動にかかる前の2週間をこの海域に留まっていた。