はじめに
本報告書は、社団法人海洋産業研究会への調査研究委託により実施した「くじら等に装着する海洋データ収集・送信システムに関する調査研究」事業の成果をとりまとめたものである。
くじら等の海産哺乳類の生態や行動パターンについては、現在ほとんど解明されていないといってよく、そもそも保護施策を講じるための知見さえ不足しているのが現状である。そこで、当会では、かねてより『くじら回遊追跡システムの開発研究』に取り組んできたが、このシステムは、同時に海中空間の立体的なデータを収集することができるので、海洋データの収集・送信システムとしての位置付けをも加味して、本事業に着手した。
まず第一に、海産哺乳類を対象としたバイオテレメトリー技術の現状を調査するとともに、海外のくじらを対象とした先進的な研究開発動向を視察調査することとした。第二に、海中情報収集の意義を整理し、くじらの生態挙動等からみた技術上の要請をまとめ、第三に、有力な装着方式の検討をおこない、その設計、試作および装着実験をも試みた。
内容的には、これまで主流と考えられている「ピン(銛)打ち込み方式」についての既往実績を整理するとともに、「サクションカップ方式」と「ポリウレタンアンカー方式」についても検討対象として取り上げることとなった。「サクションカップ方式」は脱落可能性が懸念されるという難点はあるものの、有力な装着方式の一つとして取り上げた。
他方、「ポリウレタンアンカー方式」については、まったく新しいコンセプトから出発した世界でも初めての画期的方式として取り組んだ。つまり、人工臓器など生体親和性のポリウレタンを鯨体に注入、瞬時に膨張させ曳航体と曳航ロープのアンカーの役割を果たさせる、というシステムである。本年度は、模擬鯨肉を対象とする基礎実験からスタートし、設計、試作、実験に取り組んだが、有望なシステムたりうる成果を得ることができた。
この事業をさらに進展させ、くじら等に装着したデータ収集・送信器から、実際の海洋データがわれわれの手元に届けられ、くじらの生態の解明とともに地球規模での海洋情報の収集に少しでも寄与できる時が近づくことを期待してやまない。
最後に、本事業の実施にあたりご指導をいただいた坂本委員長をはじめ委員の方々、また豊富な経験による多くの助言をいただいた大隅、相馬の両アドバイザー、さらには困難な設計、試作、実験をお願いした諸機関に対し深く感謝する次第である。海外視察調査については西脇委員にお願いし多大な成果をもたらした。ここに特記してお礼を申し上げる。
本事業はまだまだ緒についたばかりであるので、委員会外の関係方面の諸機関も含めて、これからも一層のご協力とご支援をお願いして、序にかえることとしたい。
平成12年3月
社団法人 海洋産業研究会