集客施設の経営上も、駐車場の整備や有効な宣伝広告活動などのためには、観客がどのような交通手段を利用して来園しているのか、あるいは交通手段を変更する可能性はあるのか、さらには施設への交通アクセスに関してどのように認識しているのかを分析しておく必要がある*3。
これまで通勤・通学行動における交通手段選択に関する研究は、多くの蓄積がなされている。しかし観光行動に特化した研究は、必ずしも多くない。また観光研究でも、交通手段選択及び交通に関する意識に注目した研究は十分には行なわれていない。観光行動における交通手段選択では、可能な限り自らの意思が反映されると考えられる。というのも、この場合には通勤・通学とは異なり、その行動を中止するという選択が可能だからである。そのため、車の利用可能性、道路混雑、天候、メンバー、曜日等によって交通手段を変更する可能性は、通勤・通学よりも大きいと考えられる。したがって観光行動においては、通勤行動を主にその対象としてきた伝統的な手段選択研究と違った結果が導出される可能性を有している。
2. 観光行動における交通手段選択及び交通意識の分析*4
2.1 調査対象者のプロフィール
調査対象者は、メイン出口(西口)でランダムに選択したが、ある程度幅広い年代・種々のグループから意見を聞くようにした。したがって、数字の比較の際には、若干の注意が必要であろう*5。調査対象は298組であり、その内記入もれ、団体での来園*6などを除いた有効質問票の総数は、286票(延べ人数は829人)であった。
*3 例えば、鳥羽水族館では、ゴールデンウィーク・お盆休みには周辺の旅館と提携して、観光客のパーク&ライドを実施している。また鴨川シーワールドでは、ゴールデンウィーク・お盆休み時に契約駐車場を確保している。三浦半島の先端にある油壷水族館では、ゴールデンウィークには車による道路混雑のために、入場者数が物理的に制限されているという(以上は、1997年7月26日東海大学海洋科学研究所西助教授とのインタビューでの発言である)。須磨海浜水族園でも、混雑時には、駐車場待ちの車が国道2号線にはみ出し、施設周辺の道路渋滞を悪化させている。
*4 本調査の調査日、調査時間帯、調査方法は、以下の通りである。
(調査日)1996年11月16日(土)から1996年11月24日(日)までの、休園日(11月20日)を除く8日間。
(調査時間帯)13時から16時30分。
(調査方法)須磨海浜水族園メイン出口において、予め作成した質問票に従い、対面式で調査員が回答を記入した。ただし被質問者の意向により、調査員の目前にて被質問者自らが記入する場合もあった。
交通に関する意識については、図表5に示しているように、質問項目が15個設定されており、5点尺度法にしたがって、その質問項目が「非常に当てはまる」場合の「1」から「全く関係ない」場合の「5」までの5段階で評価してもらった。詳しくは、拙稿(1999b、第5章)を参照のこと。
*5 結果的に「家族連れ」が全体の約5割になった。須磨海浜水族園が、入場者に対して実施しているアンケート調査でも、「家族連れ」が平成5年度は57.5%、平成6年度は55.4%、平成7年度は39%、平成8年度は53%であり、本稿での調査が極端に偏ったサンプリングではないと考えられる。
*6 団体での入場者を対象としなかった理由は、本調査では、観光行動における個人の交通手段選択および交通に関する意見を問題にしているからである。団体での来園では、幹事などが交通手段を決定しており、個人の観光行動とは、その決定構造に大きな違いがあると考えられるからである。