この事例研究が、日本各地において台湾人客をはじめとする外国人旅行者誘致の促進に参考となることを願うものである。
2. 観光マーケティングの意義と定義
(1) 観光マーケティング
観光マーケティングとは、「企業その他の組織が観光客の観光行動実現にかかわるニーズを満たすとともに、事業目的を達成するような取引を実現する過程である」*1。「取引」とは、組織と観光客との間の旅行商品やサービスの取引を意味している。
地方公共団体や宿泊施設・テーマパーク等の民間企業の組織(以後「観光組織」と称する)がそれぞれ行う誘客活動(集客活動)は、「観光マーケティング」である。特に日本各地への誘客活動を担う地方公共団体は、マーケティングに関する知識と実践が立ち遅れている傾向があり、海外からの外国人旅行客の誘致活動においても例外ではない。日本国内外で旅行客の誘致競争が熾烈化する今日、観光マーケティングのノウハウの活用が性急な課題となっている*2。
(2) デスティネーション・マーケティング
本研究では、観光マーケティングの分野でも、「デスティネーション・マーケティング」を取り扱う。デスティネーションとは、観光関連業界においては、「旅行目的地」を意味する用語として慣用的に使われている*3。
本研究では、デスティネーション・マーケティングとは、「旅行目的地を商品として、旅行客のニーズを満たし、かつ目的地となる地域の事業目標(旅行客数や経済効果の増大等)を達成するように旅行客を誘致するために行う誘客活動」と定義することとする。デスティネーション・マーケティングの主体となる観光組織は、国の場合は政府観光局(以後National Tourist Organizationの略称である「NTO」と称する)、都道府県・市町村では、観光所管部署である。
(3) 観光マーケティング戦略
1] デスティネーション・マーケティングにおける5つの要素
観光マーケティング戦略(以後「マーケティング戦略」と略す)とは、「観光組織のマーケティング目標を達成するように、経営資源を考慮しながら、不断に変化し高度の不確実性を有する観光市場環境、とくに競争状況へ有利に創造的に適応して、特定の観光市場を創造、維持または拡大するための観光マーケティング手段の統合方策である。
*1 長谷(1996)、p.7
*2 長谷、前掲、p.6
筆者(1993)は、台湾マーケットにおける誘客競争の激化の状況を踏まえ、地方公共団体によるマーケティング戦略策定と実践の必要性を提案した。
*3 デスティネーション・マーケティングは、「観光地マーケティング」や「地域マーケティング」と称することもある。デスティネーションの範囲は、市町村、都道府県、国、あるいはそれより広い、例えばアジア太平洋地域であったりする。また、観光組織の誘客対象とする地域の範囲よって異なり、必ずしも行政区域でない場合もある。