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(2) ナホトカ号事故における野生動物救護ボランティア活動

ナホトカ号事故では、流出油災害に伴う野生動物の救護・保全に関し、従来、我が国では行われたことのない二つの活動が行われた。その一つが、油汚染の被害を受けた海鳥の大規模な救護活動であり、もう一つが事故による海鳥への影響調査である。そのいずれもが、自然保護及び野生動物救護に関係するNGO等に所属するボランティア等の協力を得て実施されたものであった。

一般に、流出油事故に伴う海洋生態系への被害影響を把握するための一つの手法として、海洋生態系における食物連鎖ピラミッド中の最頂点に立つ海鳥や海棲哺乳類を指標生物とし、その被害影響度を調査することにより海洋生態系全体の被害影響度を推測する方法が、特に米国を中心とした欧米諸国において採用されている。この手法は、油汚染事故に伴う環境被害に対する賠償金算定の根拠となった事例もあるという。

こうしたことから、ナホトカ号事故の発生直後、海鳥への影響調査の必要性が、NGO等の集合組織である油汚染海鳥被害委員会(Oiled Bird Information Committee、以下OBICと呼ぶ。)により提言された。環境庁ではこれを受け、ナホトカ号事故における同庁による取り組みの一つとして、関係省庁及び関係地方自治体と連絡・調整を行いつつ、当該影響調査をOBIC等の協力のもと実施した。

OBICは、ナホトカ号事故直後の平成9年1月6日に結成された組織であり、主たる構成メンバーは、財団法人日本野鳥の会、財団法人鳥類保護連盟、財団法人山階鳥類研究所、日本ウミスズメ類研究会、財団法人世界自然保護基金日本委員会(WWF Japan)等であり、そのうち財団法人日本野鳥の会が事務局を務めた。

OBICでは、海鳥への影響調査のため、環境庁の支援・協力のもと、地域NGO所属のボランティア等を現場実動部隊とした鳥類海岸線調査と呼ばれる現地調査を、関係府県において事故直後の平成9年1月中旬から3月にかけて繰り返し実施した。海鳥への影響調査の主旨は、1]海鳥類がその種もしくは個体群においてどれだけのダメージを被ったかを明らかにし、回復措置の必要性に関する検討を行うこと、2]被害海鳥救護のための技術・体制を整備すること、以上の二つであった。そのため鳥類海岸線調査では、結果として油被害を受けた生体及び死体による海鳥の回収作業を行っている。

一方、海鳥をはじめとする野生動物の救護を専門とする獣医師による専門家集団である野生動物救護獣医師協会(Wild Life Rescue Veterinarian Association、以下WRVと呼ぶ。)では、ナホトカ号事故発生直後から野生動物への被害影響を懸念し、関係省庁からの正確な情報収集に努めるとともに緊急理事会を開催し今後の対策を協議した。

 

 

 

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