日本財団 図書館


ブリーフィングによって船長の方針を事前に理解しチーム全体で共有していれば、船長がミスを犯しそうになってもチームメンバーが適切な進言を行うことができます。

このようにチーム機能を最大限に活用するには、前述したブリッジチームの重要な要素である「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「人間関係」が適切に働かねばなりません。

実習では、通常時および機関故障、操舵故障、計器異常、緊急避航などの緊急時における船長のリーダーシップとメンバー相互のコミュニケーションに特に焦点を当てています。

ロールプレイ終了後、チームメンバー全員で良い点および改善点をディスカッションしながらレビューしますが、この時、オブザーバー役が重要な役割を果たします。オブザーバー役は、客観的な立場で気づいた点を述ベディスカッションを進行させます。

自分では正しいと思っていたことでも、参加者との意見交換やビデオ映像から改善点を自覚することができるわけです。

こうしたシミュレータ訓練によるケーススタディを繰り返すことによって多くの問題点が抽出され、研修生自身のチームマネージメント能力を高めていくことができます。

 

研修で気づいた点

チーム機能の三要素といわれる「リーダーシップ」「コミュニケーション」「人間関係」の中で、簡単なようで難しく、また比較的改善しやすいのが「コミュニケーション」能力であると思います。

そこで「コミュニケーション」に関する事例について今までの訓練で気づいた点を紹介します。

(1) チームの雰囲気

おとなしい性格の人がチームを構成する場合には、当然のことながらブリッジは静かです。極端に静かで会話が少ないチームでは、必要な報告(進言)が欠ける傾向にあります。また、チームメンバー相互の意思疎通も十分とはいえません。

一方船長が航海士に気軽に声をかけるチームでは、航海士(特に若い航海士)の緊張が解れるためか報告(進言)が活発になります。

船橋の雰囲気は、良好なコミュニケーションを確保するには重要な要素ですが、リーダーとしての船長の努力が必要であると痛感します。

(2) 報告(進言)が少ない例

●若い航海士からみると、船長は経験も豊富であり何でも知っている存在です。いちいち報告(進言)しなくても、自分が知っていることは、船長は既に分かっていると考える傾向があります。

船長は、部下の報告(進言)がどのようなときに必要であり、そのときには報告(進言)を行うよう事前に指示しておくことの重要性が分かります。

●「もし、間違えていたらどうしよう」という思いが先立ってしまい、報告(進言)をちゅうちょする。まじめな性格に多いケースです。

報告(進言)に対する船長の対応が重要であることを示唆しています。応答次第によっては、その後の部下のチャレンジが活発にもなり消極的にもなります。

(3) 報告(進言)のタイミングを失する例

●状況を確認してから報告しようと考えているうちに測位作業などに忙殺され、ついつい報告のタイミングを失ってしまう。

まず発見の事実、次に詳細報告といった報告の手順は、常日ごろから習慣としておく必要があります。多少タイミングが遅れても、船長が気づいてないケースも考えられるので、どんなことでも気づいたことは必ず報告するよう指導しておくことも重要な点です。

●自分ひとりで悩むケースがあります。例えば、船位が入らない。物標をとり違えたのかと疑問を抱く。測位作業を繰り返すが船位が特定できず、自分ひとりで悩みますます深みに入り込んでしまう。自分の技量が未熟であると他人から見られることを嫌うことが影響しています。

確かに技量未熟が原因のときもありますが、ジャイロ、GPSなど航海計器に異常が発生していることも考えられます。そのような場合には、ブリッジチーム全体としてその異常に気づくことが遅れ、結果として対応の遅延を生じる可能性があります。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION