このためMSCでは襲撃された船舶の明細(船名、大きさ等)、襲撃された位置・時間、襲撃後の乗組員・積荷の状態および通報を受けた沿岸国によって講じられた措置につき、各国政府および国際機関から報告を受けまとめることとした。
一九八六年九月に開催された第53回MSC会合では「船舶に対する海賊行為及び武装強盗に関する報告書」は、実際に講じられた措置に関する意見・助言などを求めるため、関連沿岸諸国にも送付し、沿岸諸国からの関連情報も今後報告されるべきであると確認した。
(2) しかしながら、海賊行為等による被害が減少しないことおよび実際に起こった被害の多くがIMOに報告されないことを踏まえ、一九九一年十一月に開催された第17回IMO総会では、決議第六八三号「船舶に対する海賊行為及び武装強盗の防止並びに抑止」(Resolution A. 683(17))を採択した。
この決議では、
イ 各国政府に対し、最優先事項として管轄海域または隣接海域における船舶に対する海賊行為等の防止・抑制のための努力を促進するとともに、安全対策の強化を含め、より広範かつ適切な行動をとることを要請する。
ロ 近隣諸国政府に対し、海賊行為等の防止および抑止のための同等の行動をとることを要請する。
ハ 各国政府に対し、海賊行為等の襲撃やその手口に関する情報は、当該水域に入域する通航船舶に提供されることを確保するよう強調する。
ニ 各国政府に対し、海賊行為等の被害に遭った自国籍船からの情報を適切かつ詳細にIMOに報告することを求める。
としており、各国による安全対策の強化および情報提供の履行につき強調している。
因みに、翌一九九二年二月、国際海事局(IMB=International Maritime Bureau)が主催したクアラルンプールでの海賊に関する会議では、海賊発生の報告を取りまとめ、業界および治安執行機関に有益な調査を促進する機関の設置につき提案がなされ、IMOおよび国際海事衛星機構(INMARSAT=International Maritime Satellite Organization)の支援を受けて、同年十月一日にIMB海賊センターがマレーシアのクアラルンプールに設立された。
(3) 一九九三年五月に開催された第62回MSC会合では「マラッカ海峡に関するワーキンググループ」の報告を考慮し、MSC回章「船舶に対する海賊及び武装強盗の排除のための各国政府への勧告」(MSC/Circ.622)およびMSC回章「船舶に対する海賊行為及び武装強盗を防止並びに抑止にかかる船主、船舶運航者、船長及び乗組員のためのガイド」(MSC/Circ.623)を策定・承認し回章に付した。
勧告は、海賊行為等の正確なデータの把握、撃退のための行動計画策定および訓練、連絡体制の確立、地域協力の発展など実務べースの内容が網羅されており、また、ガイドラインは、現金の所持から襲撃時の対応方法の策定と訓練の実施、錨地選定の留意事項、無線通信方法に至る助言まで相当細部に亘る内容が盛り込まれている。
このワーキンググループとは、IMO事務局長の提案により、マラッカ海峡の沿岸三カ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)の専門家を含む一〇カ国からの専門家で構成され、マラッカ海峡における海賊対策を含む航行安全対策の検討のため設置されていたもので、同グループは一九九三年二月から三月にかけてインドネシア、マレーシア、シンガポールを訪れ、海賊行為等の防止策を含めマラッカ海峡における航行、無線連絡、捜索、救助などに関する報告書を作成し、MSCに情報提供していたものである。