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海の気象

台風のアジア名採用について

上野達雄(うえのたつお)

(気象庁予報部予報課太平洋台風センター所長)

 

はじめに

 

気象庁は、船舶の安全航行の支援および沿岸域における災害の防止・軽減をはかるために、日本の沿岸および近海ならびに北西太平洋を対象として海上の気象予報や警報を行っています。

このうち、セーフティネット放送では、北西太平洋地区を対象として、また日本語および国際ナブテックス放送では、日本近海の三〇〇カイリ以内の区域を対象として、それぞれ台風や低気圧に伴う風や濃霧に関する情報を船舶等に提供しています。

台風に関する情報は、海上警報の中でも記述していますが、特に台風警報あるいは台風速報の形で放送しています。これらの台風に関する情報では、台風を特定するものとして、台風番号、呼名(英名)、国際共通番号(台風番号と同じもの)が用いられています。

北西太平洋域の台風については、WMO(世界気象機関)の熱帯低気圧に関する地域特別気象センター(RSMC Tokyo-Typhoon Center)として、気象庁が予報・解析などを行うとともに、熱帯低気圧に関する国際的な情報を作成・発信する責務を負っています。

一方、北西太平洋では、気象庁の他に米国の合同台風警報センター(JTWC)が独自に台風の解析と予報を行っており、それに基づいて「台風」に命名を行ってきました。JTWCの命名した呼名(英名)は国際的に広く流通しており、気象庁でも前記の海上警報、台風警報、台風速報ではこの呼名(英名)を正式に用いてきました。

しかし、来る二〇〇〇年の台風第一号からは、このJTWCが管理する呼名(英名)の代わりに、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)/WMO台風委員会(以後、台風委員会)が管理する呼名(アジア名)を用い、気象庁が台風に命名することになりました。なお、これを機にJTWCは独自の命名はやめ、気象庁の命名した呼名を用いる方針を表明しています。

 

台風アジア名の提案

 

台風のアジア名は第三〇回台風委員会(一九九七年十一、十二月香港で開催)で提案され、採用が決まりました。その後台風委員会の各メンバー国・地域から候補となる呼名が提案され、調整を経て、第三一回台風委員会(一九九八年十二月マニラで開催)で別表に示す呼名の名簿が採決されました。同時に台風への命名はこの領域の熱帯低気圧に関するRSMCである気象庁が行うこととされました。

この「台風のアジア名採用」が目指すところとは、英語の人名ではなくて、アジアになじみのある呼名をつけることによって、人々の防災意識を高めるというもので、なじみのある名前が防災意識をたかめるのに役立っているというフィリピンの経験(フィリピンは自国に影響する台風に独自に命名している)に基づいたものです。これはまた、アジアの地域文化の尊重、台風委員会諸国間の連帯の強化と相互理解の推進においても大きな意義を持つと思われます。

 

呼名の名簿について

 

採択された呼名の名簿は別表のとおり、一メンバー国・地域について一〇個の呼名枠があります。この呼名枠は、台風委員会メンバーだけではなく、北西太平洋にも領土を持つ米国とミクロネシア連邦にも与えられました。なお、米国は第三一回台風委員会で、正式に台風委員会に加盟しました。

呼名の名簿は、一群(column)二八個、五群で計一四〇個の呼名から構成されており、各群には、各提出メンバー国・地域に、二つの呼名枠が与えられ、その枠は提出メンバー国・地域名のアルファベッド順に二回繰り返して並べられています。

 

 

 

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