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水産庁漁政部企画課 課長補佐

大井光宣(おおいみつのり)

 

<プロフィル>

昭和二十六年生まれ北海道出身、昭和五十二年北海道大学卒業、水産庁入庁、北海道さけ・ますふ化場、瀬戸内海漁業調整事務所、那珂湊市水産課長(現ひたちなか市)、水産庁遠洋課などを経て、平成十一年六月から現職。

 

―― 漁船海難は減少傾向にあるものの、まだまだ多いようですが。

大井 漁船は、漁業生産という経済活動を伴うため、他の船舶と比較して安全性より経済性が優先される傾向にありますが、漁船海難の原因の多くが、「見張り不十分」など人為的要因であることから、漁業者は安全意識の向上を図り航行と操業の安全に十分心掛ける必要があります。特に「見張りの励行」を順守されるよう期待します。

―― 日本人の食の基盤である漁業振興と漁業者の安全について。

大井 戦後、漁業者は、膨大な魚介類を生産し国民を飢餓から救ったことは国民の認めるところです。その間、漁業者は「板子一枚、下は地獄」という劣悪な環境の中で多くの海難事故が発生し、人命・財産を失っております。

漁業振興は、船の大型化、漁港の整備、漁獲の向上などだけではなく、安全性の追求、無線連絡網作り、漁業の近代化に必要な資金融資、荒天時の避難場所としての漁港の充実など安全の観点にたったことも行われています。

今後、漁船労働の省人化、機械化が進みますが、国民に必要な海洋性タンパク質の安定的な確保は漁業者なくして考えられず、漁業者の健康と安全の確保は当然図られるべきと思います。

―― 漁船海難は死亡・行方不明が多いのが特徴ですが。

大井 漁船は、漁労活動を中心に航海していることから、海難事故も疲労に起因する居眠り運航による衝突・乗揚げ、荒天時の浸水・転覆、また、荒天および夜間の無理な操業による海中転落等漁業特有の原因による死亡・行方不明者が発生しています。さらに沿岸漁業では、一人乗りの小型漁船が多く、海中転落しても救助を求めることが困難な場合もあります。

これらを未然に防止するためにも、漁業無線による情報の交換、確実な航海当直の実施、救命衣の常時着用等に努めるとともに、漁業者および乗組員の安全操業に対する認識を強化していくことが必要と考えます。

―― 漁船海難防止に関し、全漁連、漁協への期待は。

大井 漁協の果たす役割は大きく、例えば、安全講習会の開催、作業安全衣の着用義務の決議など漁協が積極的に取り組むことにより漁業者の安全に関する認識を深めることができます。地域差がみられますが、積極的に取り組んだ漁協では大きな成果をあげています。

また、全漁連では平成八年度から海難防止全国大会を開き、先進事例の発表や取組報告などを行う中で全国運動への展開を図っていますが、今後とも漁船海難防止運動を粘り強く展開することが事故の減少につながると考えています。

―― 今後の漁業のあり方を。

大井 漁業は、資源の減少、労働がきつく陸上に比べて割に合わないということで、高齢化、若者離れが進んでおり、このままでは、あと十年もすれば漁業人口は半分近くになることが予想されます。

安全で消費者の嗜好(しこう)に合った海洋性タンパク質を安定的に確保していくためには、今後、漁業への若い労働力が必要であり、漁業が魅力ある職業としてあるためには?安全?ということが要因の一つであり、特に漁船は格段に安全で、居住性も豊かでなくてはならないと思います。

漁業は「きつい、汚い、危険」の3Kから、「健康的、希望は持てる、高収入」の誇れる3Kになることを期待しています。

(十月十八日、水産庁で、聞き手=村上)

 

 

 

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