漁船海難事例
居眠りして海岸に乗揚げ
事例
漁場から単独当直で帰港中、居眠り運航の防止が不十分で、入港まであとわずかの間に眠り込むことはあるまいと思いながら、いつしか居眠りして海岸に向首する針路のまま乗り揚げた事例。
船舶の要目等
総トン数 一九トン
用途 漁船
発生日時 平成六年十月二十九日〇六時二十分
発生場所 北海道南岸浦河港外
気象海象 晴、西風、風力二、上げ潮の初期
事件の概要
A丸は、長さ一九・三〇メートルのFRP製漁船であるが、いか釣り漁業の目的で、甲船長以下三人が乗り組み、平成六年十月二十七日十五時○○分北海道戸井漁港を発し、十七時○○分ごろ恵山岬近くの漁場に至って夜間操業を開始したが、漁獲が少なかったので、翌二十八日〇三時三十分ごろこれを打ち切り、僚船からの漁況がよいとの通報に期待して、七〇カイリばかり東方にあたる日高沿岸の漁場に向かった。
同十一時三十分ごろ浦河港の南方一〇カイリばかり沖合に達して、適水調査を終えた甲船長は、体息する間もなく自ら手動操作につき、僚船に倣って、いわゆる昼いかを対象とする舵取り(かんどり)操業を行い、日没後は、同所にシーアンカーを投入し夜間操業に入り、翌二十九日〇五時○○分ごろようやく、二トンばかりを獲たところで操業をやめ、同時十五分ごろ浦河灯台から一七三度(真方位、以下同じ)一二カイリばかりの地点を発し、水揚げ予定の浦河港に向け帰途に就いた。
甲船長は、漁場発進後直ちに針路を同港入口付近に向首する三五〇度に定めて自動操舵とし、機関を約一二・○ノットの全速力にかけて単独当直で進行中、前日からの漁場移動や連続操業の疲労と睡眠不足が高じて次第に眠気を覚えるようになり、やがて〇六時〇二分ごろ浦河灯台から一九三度三・○カイリばかりの地点に達したとき、これまでにない強い睡魔に襲われる不安定な当直状態となった。
しかし、入港まであとわずかの間に、まさか眠り込むことはあるまいと思い、休息中の部下を速やかに昇橋させるなど居眠り運航防止の措置をとることなく、一時体を休めるつもりで、傍らのいすに腰掛けたところ、いつしか居眠りに陥り、原針路から四分の一点ばかり左偏する進路で続行中、〇六時二〇分ごろ浦河港南防波堤灯台から三〇七度二、○○○メートルばかりにあたる岸線近くの浅礁に原針路のまま乗り揚げた。
乗揚の結果、本船は、船底外板に破口を生じて浸水し、離礁困難と判断され、同所において解撤された。
海難原因
漁場から浦河港に向け単独当直で帰航中、連続操業の疲労と睡眠不足が高じて強い眠気を覚えた際、居眠り運航の防止が不十分で、浦河港北方の海岸に向首する針路のまま進行したことに因って発生したものである。
留意事項
疲労と睡眠不足で強い眠気を覚え、居眠り運航のおそれがあるときは、他の乗組員を昇橋させ見張りの補助を行わせること。
(平成十一年三月、海難審判庁発行「乗揚海難の実態」から抜粋)