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レポート4] 協力雇用主を訪ねて。

 

協力雇用主

小嶋晃

 

小嶋さんの工場と更生保護との出会いは今から約15年前になります。近所の知り合いからの紹介で自宅待機中の学生を学校の許可を得て、工場で3か月面倒をみたのがきっかけだそうです。それを縁に暴是族の少年、家庭内暴力の子と次々にいろいろな少年を雇ってこられました。そんな評判を聞いてか、地元の保護司さんから協力雇用主になってほしいとの依頼を受けることとなり、今年で10年ほどになります。協力雇用主にと依頼されたとき、余り抵抗はなかったと社長さんは振り返ります。というのはそれまでにも地元のいろいろな少年たちを雇ってきた経験があったからです。

その後、奥様が保護司になり、それからは保護司さんからの紹介や、仕事仲間からの紹介で、数人の保護観察中の少年の面倒を見てきました。しかし就職はできても住まいが近所とは限らず、住むところやアパートを借りるお金のない少年もいました。そのような場合、少年のために工場の近くのアパートを借りることからが社長さんの仕事です。一所懸命働いてもらうためには、まず住むところを確保することが第一だそうです。

住まいや食事のことに始まり、出産の世話までもされたりと、家族同様にあるいはそれ以上に面倒を見られています。「いい子が多いんですよ。それに一所懸命やるし、かわいいよ。こちらが誠意を持って接すると応えてくれるから」とおっしゃる笑顔には、雇用主というよりまるで父親母親のような温かさがあふれています。

本社工場ではプラスティック金型の研磨加工作業をしています。プラスティック製品は金型の間にプラスティック樹脂を流し込んで出来上がりますが、そのためにはプラスティック樹脂を流し込む金型が必要です。例えば乗用車1台につき200個以上のプラスティックの部品があるそうです。その金型を職人の経験と長年の勘で磨き上げていく特殊技術を要する仕事です。2年くらいの見習期間の後、簡単な金型なら一人で研磨加工できるようになります。流れ作業ではなく、最初から最後まで自分一人で仕上げるだけに結果が目に見えて面白いと小嶋さんはおっしゃいます。金型を磨けば磨くほど職人としての腕も磨かれていきます。工場では熟練の職人さんたちが黙々と作業をされていました。目の前に目標となる先輩がいることも、少年たちの励みになっているそうです。「学校では勉強ができなかったとしても、それは勉強しなかったからできなかったんで、やればできるんですよ」。人を信頼して仕事を任せていくのが小嶋さんの経営の根幹にある姿勢のように感じます。

長続きする人ばかりとは限りませんが、辞めてしまっても近況を伝える手紙が来たり、近くまで来たと顔を見せたり、ときには御夫妻で訪ねていくこともあるそうです。小嶋さんの工場で働いたのは短期間であっても、それが社会に出る足がかりになったのなら、それはそれでよかったともおっしゃいます。社会でまじめに働いていることが小嶋さんにとっては何よりの恩返しになるのかもしれません。

 

 

 

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