また、発震後1時間以内の出火が拡大した比率と出動可能であった消防ポンプ台数当りの出火件数を比較すると(図3)、消火機材を持った消防団が積極的に消火活動に従事した芦屋・西宮両市での拡大率は、消防団に消防ポンプ等が配備されていなかった神戸市の沿岸各区と比較すると(東灘区を除く)、明らかに小さかったことも分析されている。
常設の消防部隊は、平常時火災に対応して整備されている。来るべき“Big one”での火災被害軽減の主役は住民自らの出火防止であることは論を待たない。しかし、地震時の出火が極めて確率的現象であり皆無とすることは不可能であることを踏まえると、住民自身や消防団と密接に連携した地域ぐるみの初期消火・延焼防止行動が、大都市地震時の火災被害を軽減する重要な手立てとなる。
一方、闇雲に住民消火を督励することには、大きな危険を伴う場合がある。阪神・淡路大震災での果敢な住民消火は、静穏な気象条件等によって延焼の拡大が極端に遅かったからと見るべきであり、関東大震災時の神田佐久間町の例は、適切なリーダーと充分な消火用水の存在があったからこそ、と解釈すべきである。住民消火という住民参加による対策を期待するならば、地区内での充分な消火用水の確保という施設的な対策のバックアップが不可欠である。
さらに、住民参加による災害に強いまちづくり推進には、関連する対策を並行して実施することが必要である。住民消火体制の確立にあたっては、状況を変化させた防災訓練の繰り返し、複数のリーダーの養成、避難のタイミングを失しないための火災性状に関する知識の普及・蓄積等が消防機関と住民組織に期待される課題である。