1) 教訓が正しいかどうかの吟味:知識はある限定条件下で得られるという性格上、必ず「色」がついていることである。
2) 複数の教訓の間の階層性の明示:都市災害では多くの要因が絡み合って、被害を大きく、かつ長期化している。これらの要因はネットワーク構造をもっていると言ってもよい。この構造の最大の欠点は、責任の所在、重要度や緊急性が曖昧になることである。多くの教訓に従って並列的に行動するのは不可能であり、優先順位をつけるために、教訓の階層性を明らかにする。
3) 教訓の一般化の試み:阪神・淡路大震災にしか適用できないような教訓は、今後の都市地震防災では、危険な場合がある。たとえば、二次災害で津波が来襲する場合には、海からの救援は期待できないし、地震直後、臨海部の住民は早急に避難する必要があるからである。
4) 教訓の限界:阪神・淡路大震災はあくまでも直下型地震で、阪神・淡路地区以外は大きな被害はない。前述した東南海・南海地震の連続発生、あるいは単独発生でも広域に被害が拡大する。現有の防災体制では対処できない。
4. なぜトルコの地震の調査を行わなければならないのか
トルコの地震の話題は、起こってからわずかに1週間程度でわが国の新聞紙上で大きく取り扱われなくなった。中・高層アパートのパンケーキ破壊によって現在わかっているだけでも1.4万人の住民の死亡が確認され、下手をすると4万人に達すると指摘されている。トルコの防災体制は、わが国では自治体が前面に立って行うのに対し、国防省の下にある市民防衛隊(Civil Defense)が担当することになっている。つまり初めから国が出てくる仕組みになっている。ところが報道によれば、被災地の1つである海軍基地ギョルジュクが大きな被害を受けてしまったために、がれきの下敷きになった市民の救出はもとより、救援活動もすぐにできなかった。この基地には海兵隊とその家族2.45万人が生活しており、兵士310人死亡、500人負傷という被害を被ったために、初動が遅れたのである。この震災の調査では、社会インフラやライフライン、建物がなぜ大量に破壊されたかについては、海外調査のベテランが公費でわざわざ現地調査する必要はないと言っても過言ではないだろう。ただし、若手研究者や実務家でこれまで海外の現場を見たことがない場合には1度は経験しておくべきと考えられる。
わが国の首都圏で震災が発生したり、冒頭で指摘したような東海・南海地震と津波が広域災害を引き起こした場合に、トルコの地震災害の教訓が生かせると考えられるから調査するのである。つまり、阪神・淡路大震災の発生環境では、とくに社会科学的側面に関する教訓がそのまま使えないことや、教訓がない場合が起こり得るのである。なぜなら、
1) 国家レベルの被害発生に対して、自衛隊そのものが被災することを想定していない。たとえば、首都圏で震災が発生した場合、およそ8万人の自衛隊員が集結することになっている。しかし、彼らが被災しないという保証はどこにもない。自衛隊は正面装備は優秀であるが、それを支えるロジスティックスが貧弱であることは衆目が認めるところである(たとえば、わが国全土の数値地図が備えられていなく、電話のディジタル化が遅れていることなど)。