三 火災の概要
この工場では、レアース(希土類の総称)に含まれるセリウムとランタンの屑を抽出し、加工したものを製品としている。
金属切り粉の保管状況は、平成九年四月から一一年二月までのレアース加工工程で出た螺旋状及び粉末の切り粉約一〇〇?sを数種類の金属缶一〇本に小分けして入れ、空気に触れないよう、それぞれマシン油を満たして屋外に置いていた。
これを処理業者に引き渡すため、当日一〇〜一四時間をかけて中のマシン油を抜き取り、ドラム缶にまとめて入替え、専用の蓋にボルト締めのリングで密閉して置いたが、二〇時三〇分頃「ドーン」という大きな爆発音とともに炎が吹き出したものである。
四 活動状況
工場内で金属破砕作業をしていた従業員が爆発音に驚き屋外に飛び出し、ドラム缶から吹き出す火炎を確認、消火器で即消火したが、再び燃え出し、消火器によりさらに消火するも再燃するため、フォークリフトでドラム缶を空地中央に移動し、砂を用いて消火したものである。
五 火災原因の判定
このセリウム及びランタンは、微粉末以外では消防法で規制される危険物に該当しない物品であるが、粉末または箔状では可燃性を有するため、特に注意が必要である。
貯蔵にあたっては、空気や水との接触を絶ち、不活性雰囲気中に密封することにより、発火の危険性がない安定した物質であるが、酸化剤やハロゲンと反応、常温でも水と徐々に反応し水素を発生させる性質からして、本火災の原因は、ドラム缶に入替えた際、マシン油が入っていなかったため、残留する空気、水分と反応し発熱、徐々に蓄熱され、発火に至ったものと推定される。
あとがき
この火災は、人的物的な損害もない小規模な火災事例であるが、大規模な災害に発展する潜在的要素は見過ごすことのできない側面をもっています。そしてこのような法規制対象外の物質の保管、取扱いにあっても、その性質に合った基本的なルールを守らなければ事故に結びつくという教訓を改めて残した事例であります。
当消防本部としては、今後このような事故の再発を防止するため、予防査察や警防調査により、会社内部の物質の把握と、取扱い等の指導を更に徹底していかなければならないと考えております。
(新妻智)
救急・救助
明石海峡大橋を渡っての転院搬送
徳島市消防局(徳島)
はじめに
徳島市は、四国・徳島県の東端に位置し、四国三郎との異名をとる吉野川下流沖積平野に広がる町であり、古く万葉の時代に詠まれた眉山の景観は市の象徴であり、阿波踊りは徳島の代名詞である。
市人口約二七〇、〇〇〇人、管内は、面積一九一・二三km2、昭和二三年六月消防本部設置以来、現在一本部・二署・二分署・二出張所、職員数二四六人、三交代制勤務で防災活動を行っている。
また、平成一〇年四月五日、徳島県は明石海峡大橋の開通により本州と結ばれ近畿圏と直結されることとなった。
『消防管轄外と搬送拒否、再要望・三時間後出動』とY新聞で報じられたのは、今年四月一〇日であり、翌日地元新聞にもこれを受けてか、同様の記事が掲載された。
昨年、当時六歳の女児を管内から京都大学医学部附属病院へ搬送したが、今年四月に入り、急にこの救急搬送に関し各報道機関からの問い合わせが相次いだ。
一 出場決定までの経過
平成一〇年九月二二日(火)台風七号の襲来も過ぎ去った午後九時過ぎ、徳島大学医学部附属病院から救急車により、京都大学医学部附属病院まで患者を搬送して欲しい旨の依頼が消防局通信指令室にあった。
管轄外であることから、出場を一旦は断るが、生命に危険があるとのことから県医師会を通じ消防機関に再度の要請があり、時間的に余裕のない急病人であること及び生命尊重の立場から午後一一時一〇分、救急車の出場が決定した。