ある救命対応として出動した時のことです。「六〇才の男性が急に倒れた」という通報内容でした。現場に駆付けてみると家族が人工呼吸をしているではありませんか、通報を受けてから五分『これはなんとかなる』確信の基に心肺蘇生を開始しました。
そして心電図を観ると除細動を必要としていました。
『奥さんよく聞いてください、旦那さんの心臓は震えている状態です。病院の先生から指示をもらってこの場所で電気ショックをしてもいいですか?』
「助かるのでしょうか?」
『今の状態には、電気ショックが必要です』
そして指示要請に入りました。
『先生、心電図波形は心室細動です、これから心電図を電送しますので指示を下さい』
しかしその時です、私には予想もしていない事が起きてしまいました。心臓の震えが、やや小さかったためか半自動式除細動器が「除細動は必要としない」と言うメッセージを出したのです。救急救命士法では、医師の指示とは別に半自動式除細動器の解析がなければ除細動してはならないのです。
『奥さんとにかく今は病院に向かいます、電気ショックはそれからにしましょう』そして、心肺蘇生を継続しながら搬送した病院では、直ちに除細動が施されました。
結果は心拍再開、しかし生命の源である脳に大きなダメージを残してしまいました。植物状態です。私は最後まで、この家族に救急現場で除細動できなかった理由を説明することができませんでした。これ以上の処置はできないのですから仕方がないのかもしれません。しかし半自動式除細動器の解析がなくとも、マニュアル操作という自由にエネルギーを設定する方法を使えば、救急現場で除細動をすることはできたのです。
そこで、もしこの傷病者さんが皆さんの家族であったならどう思いますか。
「助かるかもしれない」という可能性があれば、救急救命士法の範囲を越えてでも「今この場でできる処置はすべて試みてほしい」と思いませんか。
「どうして、あの時電気ショックしてくれなかったのですか?」
『はい、先生は「やれ」と言ったのですが、電気ショックをする機械が「だめだ」と言ったのです、この場合は仕方がないのです』
これが、今私の出せる答えです。納得してくれるでしょうか。
救急隊に医療行為という扉が開かれ、今はほんの一歩踏み込んだだけです。今一番大切なことは、現在許されている行為なら、確実にそして事故なくできるという実績を積み重ねていくことです。しかし一歩踏み込んだとはいえ、早七年が経過しようとしています。一度過去を振り返って、反省すべきところは反省し、改善すべきところは改善する時期でもあるのではないでしょうか。
最後に、「救急救命士なら、もう任せて大丈夫だ」この評価の下る日を最も待ち望んでいるのは私ではありません、市民です。
発表者インタビュー(発表順・敬称略)
1] 出場した動機
2] 発表で最も訴えたかったこと
3] 発表を終えてひと言
4] この発表体験をあなたの将来にどのように活かしたいか
○倉本勝公(二八歳)
佐賀郡消防事務組合消防本部(九州)
勤続六年
「母に教え、そして教えられたこと」
防火意識を身につけようと努力している母の姿から、防災意識の高揚の重要性を学び、地域の大きな防火の輪に広めたい。
1] 署内で選考され、出場させていただきました。
2] 様々なかたちで防火知識は広がることがあります。私達は広がっていく知識と広げる心を消防官として大切にして行くことです。
3] ホッとしたことと、同時に全国大会という大舞台で発表できたことを嬉しく思います。今日まで応援していただいた皆様、本当にありがとうございました。
4] この貴重な体験を糧として、これからは色んなことを積極的に挑戦していきたいと思います。
○勘原 栄作(二九歳)
仲多度南部消防組合消防本部(四国)
勤続一一年
「もう一つの舞台“消防戦士かんちまる”」
阪神大震災被災地応援隊として出場した体験から、地元青年団活動の中にもう一つの消防の舞台を発見、その内容と決意を発表する。