私のおすすめ図書
坂上香 著
「癒しと和解への旅-犯罪被害者と死刑囚の家族たち」
岩波書店
殺人事件の被害者と死刑囚の家族が、ともに旅をし、語り合い、みずからの体験を共有する-。
このような旅「ジャーニー・オブ・ホープ」が米国で始まった。
被害者遣族へのサポートはどうなっているのか?
死刑を宣告された少年たちの背景は?
さらにジャーニーに集う人々それぞれの心の葛藤、社会との戦いを丹念なインタビューで綴る、渾身のルポルタージュ。
この本を読んで、印象に残ることはたくさんあったのですが、「犯人を処罰するよりも、私の心の苦しみを何とかして!」と叫ぶ被害者や、「殺人の被害者遺族と加害者家族の苦悩は似ている」という言葉が心に残っています。
また、最近は、被害者の人権、被害者の気持ち、被害者の立場・・・と被害者がひとくくりにされてしまうことが多いようですが、実際は同じ被害者でも思いはみな違うのです。この本に登場しているMVFR(Murder Victims Families for Reconciliation 和解のための殺人被害者遺族の会)というグループは「死刑反対」の立場で、私達がよく知っているNOVA(全米被害者援助機構)とは考え方が少し違います。と言っても、MVFRのメンバーでも「死刑反対」に対する思いはそれぞれ違い、それがもとで仲間割れをしてしまうこともあります。人間はひとりひとり感じ方が違うとわかっていたつもりなのに、いつの間にか私は「被害者とはこのようなもの」と枠に入れて考えていたことに気づき、反省!反省!
この本の最後に、犯罪者への実験的な処遇プログラムについて書かれていました。刑務所にいる犯罪者が集まって、その仲間の中で、自分の子供時代について語り、自らを見つめ直す心理療法です。そこでは、犯罪者もかつては被害者であったことが浮き彫りになってきます。そして、それを語った犯罪者は、自分をそこにいる仲間にありのまま受けとめられるという体験をします。つまり被害者であった自分を他人に認めてもらうことで、初めて加害者の自分と向き合うことができるようになっていくのです。被害者としての自分と加害者の自分、この両方の存在を仲間の中で確認することがこのプログラムの柱になっているようです。
この本は、相談室にありますので、興味のある方は是非、読んでみてください。
新刊コーナー
諸澤英道編著「トラウマから回復するために」 講談社 1999
ウオード著 田中富士夫訳 「電話相談とセックス通話者」 川島書店 1999