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電話の前で

 

「早くも3年が経過しようとしている。最初の頃の不安と緊張は少しなくなっているが、それが悪い方に向かっていると思う時もある。受けながら、知らず知らず分類を始めたりしてしまう事である。電話の向こうにおられる方に気持ちを寄せるより前に、『この方の場合は』などと頭の方が動きだしてしまったりする。気がついて深呼吸し、相手の方の声に聞き入る。電話のかけ手の方の経験を共にする事は出来ないが、少しでもわかろう、気持ちに近づこう、と目をつぶる。息づかいや声の色にも気づくことが出来てくると、こちらの受け答えによっては少し明るくなられたり、元気になられたりしてくるのがわかる時ホッとする。声が変わってこられたのが鮮明な時はその通りを言葉にしてみる。『少し声が明るくなられたように聞こえますが』『あら、そうですか』そして2人で喜び合えたりできる時は嬉しい。最近、若い方からの電話もあるようになった。こんな時はつい母親の声になったり気持ちになったりして、気持ちに寄り添うことよりお説教じみたことを言いたくなる。『責任を持って』とか『大丈夫、頑張ってみたら』とか、我子なら嫌がるようなセリフが口に出てしまい、『いけないいけない』と自戒するがまたやってしまう。若い人が、こんな所に電話しないでもよい世の中だと良いのにと心から思う。3年目の今は電話の件数もぐっと増えて、『知ってくれる人が増えたのは良いけれど、ここが忙しいのは良いことではないんだよね』と一人言が出る昨今である。」    (H.N.)

 

 

 

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