II-2. 輸出入通関
A. 通関事情を巡る背景
ロシアにおける輸出入通関は、EU諸国や資本主義国家の輸出入通関と同一レベルで比較することはできない。なぜなら、共産主義体制の崩壊を契機にした新体制への移行は、さまざまな混乱を招いており、輸出入手続きにおいても、法・規制の裏をかいた手段による違法な手続きが行われているのが実情といわれているからである。
このような混乱した状況下においては、外国系企業が自身で正規な輸出入通関事務を遂行することはきわめて難しい。その困難性の理解のために、あえて税関体制の確立までの歴史等を述べ、ロシア通関事情のバックグラウンドの理解が必要と考える。
・旧ソ連時代は対外経済省が国家計画の枠組みの中で独占的に貿易を行っていた。したがって、税関の重要性は認識されにくかった。
・事実1989年時点ではソ連全体での税関職員は3000人程度であり、その主業務は密輸摘発であり、関税徴収ではなかった。ところが、ソ連邦崩壊により国家貿易独占体制が崩壊し、税関の役割を急速に変革する必要性が生じたが、関税法が制定されたのは1991年のことに過ぎず、税関が関税徴収という役割を果たすようになってから10年に満たない。
・時期を同じくして通関業ライセンス、保税倉庫、保税運送等のシステムができあがってきたが、いまだ各関連法規の変更が頻繁に行われており、それが末端まで周知されるのが遅いという問題点もある。
・現在ロシアの税関職員は42000人と10年前の10倍以上に急膨張した。そのため、質の面で問題があり、通関知識の不足等で審査に時間を要することが多く、地方で特にその傾向が強い。
・法令解釈等も税関ごと、あるいは担当者ごとに異なるといった状況も続いている。
このように、まず、通関制度におけるシステムが確立されたとはいいがたい状況がベースに存在する。加えて、国家税収が大きく関税に依存しているため高関税率であり、本来的に通関システムの不備を突くような「闇通関」や「密輸」が発生しやすい土壌があるといえる。不正規な通関(特に関税を逃れるための不正規な輸入通関)については、以下のような事例が存在するといわれている。